祝福のあとで

海外に来て、
 数週間が経った。

 朝はもう、
 目覚ましがなくても起きられるし、
 街の音にも、
 少しずつ慣れてきた。

 仕事も、
 忙しいけれど順調だった。

 現地スタッフとのやり取りも、
 思ったよりスムーズで、
 「さすがですね」と言われることも増えた。

 ——ちゃんと、やれてる。

 そう思える日が、
 増えてきた頃だった。

 直とは、
 毎日連絡を取っている。

 短いメッセージ。
 写真。
 たまに音声。

 おはようと、
 おやすみが、
 少しずつずれていくだけ。

 それが、
 今の“普通”だった。

 その日は、
 仕事が少し早く終わった。

 外はまだ明るくて、
 ホテルの部屋に戻るには、
 少しだけ早い時間。

 ひかりは、
 カフェでコーヒーを飲みながら、
 スマートフォンを見つめていた。

 直からの最後のメッセージは、
 数時間前。

『今から仕込み』
『今日は少し遅くなるかも』

 いつもの一文。

 ひかりは、
 それに小さく頷くみたいに、
 画面を閉じた。

 そのまま、
 特に理由もなく、
 通話ボタンに指が触れる。

 一瞬、
 迷う。

 ——今、向こうは夜だ。

 忙しいかもしれない。
 疲れているかもしれない。

 でも。

 呼び出し音が鳴って、
 二回目で、切れた。

 あ、やっぱり——

 そう思った瞬間。

 もう一度、
 画面が光る。

 今度は、
 直からだった。

『今、大丈夫?』

 文字だけなのに、
 少し息を整えた感じが伝わる。

『うん』
『ごめん、忙しかった?』

『いや』
『ちょうど一息ついたとこ』

 その返事を見て、
 ひかりは、
 少しだけ安心した。

 通話が繋がる。

 画面に映った直は、
 バーの控室だろうか。
 白いシャツのまま、
 椅子に腰を下ろしていた。

「久しぶり」