祝福のあとで

目を覚ましたとき、
 直は、すぐには動かなかった。

 隣にある体温が、
 まだ、ちゃんとそこにある。

 ひかりは、
 小さく丸くなって眠っていた。

 呼吸は浅くて、
 でも規則正しい。

 ——起こさない方がいい。

 そう思ったのは、
 気遣いだけじゃなかった。

 昨夜のことが、
 思い出そうとしなくても、
 勝手に浮かんでくる。

 触れたときの反応。
 視線の揺れ。
 声を抑えようとする仕草。

 可愛かった。

 それを認めると、
 胸の奥が、
 少しだけ苦しくなる。

 ——制御、できなかったな。

 後悔じゃない。
 でも、反省はある。

 無理はさせてない。
 確認も、待つ時間も、ちゃんと取った。

 それでも。

 “守る側”でいるつもりだったのに、
 欲しいと思ってしまった。

 直は、
 そっとベッドを抜け出す。

 毛布がずれないように、
 指先だけで整えてから。

 ひかりは、
 少しだけ眉を寄せたけど、
 起きなかった。

 それを見て、
 直は、ようやく息を吐く。

 キッチンに立つ。

 電気はつけない。
 朝の光だけで十分だった。

 湯を沸かす音が、
 部屋に静かに広がる。

 ——落ち着け。

 これは、
 自分に言い聞かせるための時間だ。

 豆を挽く。
 湯を落とす。

 規則正しい動きに、
 心拍が、少しずつ戻ってくる。

 繋がれたことは、
 嬉しかった。

 それは、否定しない。

 でも今は、
 その気持ちを、
 ひかりに気づかせない方がいい。

 まだ、寝かせておこう。

 昨夜は、
 きっと、想像以上に疲れている。

 マグカップを二つ用意して、
 一つだけ棚に戻す。

 自分の分だけ。

 ひかりの分は、
 起きてから。

 それまで、
 温度も、
 距離も、
 ちゃんと保つ。

 コーヒーの香りが立ち上る頃、
 直は一度だけ、
 寝室の方を振り返った。

 カーテン越しの光の中で、
 ひかりは、
 まだ静かに眠っている。

 ——大丈夫。

 昨夜も、
 今も。

 この人を、
 ちゃんと大切にできている。

 そう思えたから、
 直は、
 もう一度だけ深く息を吸って、
 コーヒーを口に運んだ。