ひかりは、
すぐには答えられなかった。
戻りたい。
その気持ちは、
もう誤魔化せなかった。
直の言葉が、
胸の奥に、
まっすぐ届いている。
それなのに。
ひかりは、
小さく息を吐いてから言った。
「……私も」
一度、言葉を切る。
「直さんのこと、
今も、好きです」
それは、
別れた日の続きみたいな告白だった。
でも、
そこで終わらなかった。
「だからこそ」
視線を落としたまま、
続ける。
「簡単に、
戻りたいって言えなくて」
直は、
何も言わずに聞いている。
ひかりは、
チャペルの床に落ちる光を見つめながら、
言葉を探した。
「海外転勤の話」
直の呼吸が、
ほんの少しだけ変わる。
でも、
口は挟まない。
「まだ、
正式に決めたわけじゃないです」
「返事も、
式が終わってからでいいって言われてる」
そこで、
ようやく直を見る。
「でも」
声が、
少しだけ揺れた。
「行ったら、
簡単には戻れない」
「仕事としても、
人生としても」
それは、
未来の話なのに、
もう現実だった。
「直さんと、
やり直したい気持ちはある」
はっきり、
そう言った。
「でも」
もう一度。
「どちらかを選んだら、
どちらかを、
失う気がして」
ひかりは、
拳を軽く握る。
あの夜。
身を引いた理由。
あれは、
間違いじゃなかった。
ただ、
怖かっただけだ。
「私は」
ひかりは、
正直に言った。
「直さんの未来を、
奪うみたいになるのも」
「自分の未来を、
諦めるみたいになるのも」
どちらも、
できなくて」
沈黙が落ちる。
でも、
逃げる沈黙じゃない。
直は、
ゆっくりと息を吸ってから、
言った。
