ひかりは、
少しだけ視線を落としてから、
ゆっくり口を開いた。
「……別れたときも」
「今も、
好きです」
言い切りだった。
迷いも、
飾りもない。
直の呼吸が、
ほんのわずかに止まるのが分かった。
「好きだから」
ひかりは続ける。
「離れました」
直は、
何も言わない。
ただ、
逃さない距離で、
ひかりを見ている。
「別れ話をしたとき」
ひかりは、
あの日を思い出す。
バーの静けさ。
グラスの音。
直の、変わらない顔。
「海外転勤の話があるって、
言われました」
直の眉が、
わずかに動く。
ひかりは、
その変化に気づいていないふりをして、
続けた。
「正式な決定じゃなかったけど」
「私の中では、
もう、答えは出てて」
直の幸せ。
その言葉を、
口に出す前に、
ひかりは一度だけ息を吸う。
「直さんが」
「由里さんのことを、
大事にしてるように見えて」
「私には、
ああいうふうに、
素直に頼れる人がいるのかなって」
笑おうとして、
少し失敗する。
「それで」
声が、
少しだけ揺れた。
「私がそばにいると、
直さんは、
“選ばなきゃいけない”人になる気がしたんです」
直は、
小さく息を吸う。
でも、
遮らない。
「だったら」
「私がいなくなれば、
直さんは、
誰も傷つけずに済む」
それは、
自己犠牲でも、
美談でもない。
ひかりなりの、
必死な選択だった。
「直さんが幸せになるなら」
ひかりは、
まっすぐ直を見た。
「私は、
身を引けるって、
本気で思いました」
チャペルの空気が、
静止したように感じられる。
直は、
しばらく何も言わなかった。
それから、
低く、確かな声で言う。
「……俺の幸せを、
決めないでほしかった」
責める響きは、
なかった。
ただ、
本音だった。
ひかりの胸が、
ぎゅっと締めつけられる。
「好きなら」
直は続ける。
「一緒に、
迷ってほしかった」
ひかりは、
唇を噛んだ。
それができなかった自分を、
今さら責めるように。
「でも」
ひかりは、
震えを抑えて言う。
「私は、
直さんを好きなまま、
選ばれない側になるのが、
一番怖かった」
それが、
本当の理由だった。
チャペルに、
再び静けさが戻る。
でも、
今度の沈黙は、
逃げるためのものじゃない。
二人が、
同じ場所に立つための、
間だった。
少しだけ視線を落としてから、
ゆっくり口を開いた。
「……別れたときも」
「今も、
好きです」
言い切りだった。
迷いも、
飾りもない。
直の呼吸が、
ほんのわずかに止まるのが分かった。
「好きだから」
ひかりは続ける。
「離れました」
直は、
何も言わない。
ただ、
逃さない距離で、
ひかりを見ている。
「別れ話をしたとき」
ひかりは、
あの日を思い出す。
バーの静けさ。
グラスの音。
直の、変わらない顔。
「海外転勤の話があるって、
言われました」
直の眉が、
わずかに動く。
ひかりは、
その変化に気づいていないふりをして、
続けた。
「正式な決定じゃなかったけど」
「私の中では、
もう、答えは出てて」
直の幸せ。
その言葉を、
口に出す前に、
ひかりは一度だけ息を吸う。
「直さんが」
「由里さんのことを、
大事にしてるように見えて」
「私には、
ああいうふうに、
素直に頼れる人がいるのかなって」
笑おうとして、
少し失敗する。
「それで」
声が、
少しだけ揺れた。
「私がそばにいると、
直さんは、
“選ばなきゃいけない”人になる気がしたんです」
直は、
小さく息を吸う。
でも、
遮らない。
「だったら」
「私がいなくなれば、
直さんは、
誰も傷つけずに済む」
それは、
自己犠牲でも、
美談でもない。
ひかりなりの、
必死な選択だった。
「直さんが幸せになるなら」
ひかりは、
まっすぐ直を見た。
「私は、
身を引けるって、
本気で思いました」
チャペルの空気が、
静止したように感じられる。
直は、
しばらく何も言わなかった。
それから、
低く、確かな声で言う。
「……俺の幸せを、
決めないでほしかった」
責める響きは、
なかった。
ただ、
本音だった。
ひかりの胸が、
ぎゅっと締めつけられる。
「好きなら」
直は続ける。
「一緒に、
迷ってほしかった」
ひかりは、
唇を噛んだ。
それができなかった自分を、
今さら責めるように。
「でも」
ひかりは、
震えを抑えて言う。
「私は、
直さんを好きなまま、
選ばれない側になるのが、
一番怖かった」
それが、
本当の理由だった。
チャペルに、
再び静けさが戻る。
でも、
今度の沈黙は、
逃げるためのものじゃない。
二人が、
同じ場所に立つための、
間だった。
