チャペルの扉が、
小さく軋む音を立てた。
ひかりは、
反射的に顔を上げる。
逆光の中に、
一人の影が立っていた。
直だった。
親族席で見たときと同じスーツ。
でも、
今はもう、
“式に参列している人”の顔じゃない。
一歩、近づいてきて、
それから、足を止める。
距離を測るみたいに。
「……探してた」
低い声。
呼び止めるでもなく、
責めるでもない。
ただ、
事実をそのまま置いた言い方。
ひかりは、
すぐには返事ができなかった。
ここに来た理由も、
今の気持ちも、
一言で説明できるほど、
整理されていなかったから。
「式、無事に終わったね」
先にそう言ったのは、
直だった。
逃げ道を用意するみたいに。
「……はい」
短く答える。
それだけで、
胸の奥が少しだけ緩む。
直は、
祭壇の方に一度だけ視線を向けてから、
ひかりを見る。
「一人になりたかった?」
問いかけは、
確信に近かった。
ひかりは、
否定もしなかった。
「……少しだけ」
「そっか」
それ以上、
踏み込んではこない。
でも、
離れもしない。
その距離が、
ひかりには苦しかった。
同時に、
救いでもあった。
静かなチャペルに、
二人分の呼吸だけが残る。
ひかりは、
ゆっくりと息を吸ってから、
ようやく口を開いた。
「……探してたって」
「どうして?」
直は、
ほんの一瞬だけ、
言葉を選ぶような間を置いた。
「いなくなったから」
理由は、
それだけだった。
でも、
それで十分だった。
