ある日の打ち合わせの終わり際、
由里がふっと言った。
「ねえ、ひかりさん」
「はい?」
「最初の頃より、
なんだか距離が近くなった気がして」
照れたように笑う。
「こういうの、嬉しいなって思って」
ひかりは、
少しだけ微笑んだ。
「そう言っていただけると、
私も嬉しいです」
由里は、
それに満足したみたいに頷いてから、
続ける。
「今は立場的に難しいかもしれないけど」
「式が無事に終わったら、
二人でご飯でも行かない?」
女同士、
ゆっくり。
その言い方が、
未来の話だった。
「ぜひ」
ひかりは、
即答した。
その自然さに、
由里は安心したように笑う。
「よかった」
それから、
何気ない調子で言う。
「そういえば」
由里は、
資料をまとめながら続けた。
「前に直くんとも、
こうやって打ち合わせしたなって、
ふと思い出しちゃって」
ひかりの指が、
一瞬だけ止まる。
「お店オープンするとき、
内装とかインテリアで悩んでて」
「知人に紹介されて、
それで関わるようになったの」
特別な思い出じゃない。
ただの過去。
そういう話し方だった。
「直くん、
あの時もあんまり多くは話さなかったけど」
由里は、
少し懐かしそうに笑う。
「でも、
ちゃんと聞いてる人だなって思った」
ひかりは、
相槌を打ちながら、
胸の奥に落ちる感覚を、
静かに受け止めていた。
知らなかった話。
知らなくて、
当然の時間。
それなのに、
直の名前が出た瞬間、
空気がほんの少しだけ変わった気がした。
——まただ。
最近、
直の名前が出るたびに、
こうして意識してしまう。
由里は、
悪気なんて一切ない。
ただ、
過去を話しただけ。
ひかりは、
それを分かっている。
だから、
顔には出さない。
ただ、
心のどこかに、
小さな引っかかりが残る。
この感覚に、
まだ名前はつけない。
でも、
今日を境に、
直が誰かと向き合うときの表情を、
ひかりは、
前よりも注意深く見るようになってしまう。
そんな予感だけが、
静かに胸に残った。
由里がふっと言った。
「ねえ、ひかりさん」
「はい?」
「最初の頃より、
なんだか距離が近くなった気がして」
照れたように笑う。
「こういうの、嬉しいなって思って」
ひかりは、
少しだけ微笑んだ。
「そう言っていただけると、
私も嬉しいです」
由里は、
それに満足したみたいに頷いてから、
続ける。
「今は立場的に難しいかもしれないけど」
「式が無事に終わったら、
二人でご飯でも行かない?」
女同士、
ゆっくり。
その言い方が、
未来の話だった。
「ぜひ」
ひかりは、
即答した。
その自然さに、
由里は安心したように笑う。
「よかった」
それから、
何気ない調子で言う。
「そういえば」
由里は、
資料をまとめながら続けた。
「前に直くんとも、
こうやって打ち合わせしたなって、
ふと思い出しちゃって」
ひかりの指が、
一瞬だけ止まる。
「お店オープンするとき、
内装とかインテリアで悩んでて」
「知人に紹介されて、
それで関わるようになったの」
特別な思い出じゃない。
ただの過去。
そういう話し方だった。
「直くん、
あの時もあんまり多くは話さなかったけど」
由里は、
少し懐かしそうに笑う。
「でも、
ちゃんと聞いてる人だなって思った」
ひかりは、
相槌を打ちながら、
胸の奥に落ちる感覚を、
静かに受け止めていた。
知らなかった話。
知らなくて、
当然の時間。
それなのに、
直の名前が出た瞬間、
空気がほんの少しだけ変わった気がした。
——まただ。
最近、
直の名前が出るたびに、
こうして意識してしまう。
由里は、
悪気なんて一切ない。
ただ、
過去を話しただけ。
ひかりは、
それを分かっている。
だから、
顔には出さない。
ただ、
心のどこかに、
小さな引っかかりが残る。
この感覚に、
まだ名前はつけない。
でも、
今日を境に、
直が誰かと向き合うときの表情を、
ひかりは、
前よりも注意深く見るようになってしまう。
そんな予感だけが、
静かに胸に残った。
