祝福のあとで

朝の光は、
思っていたより、やさしかった。

カーテンの隙間から差し込む白い光が、
部屋の輪郭を、少しずつ浮かび上がらせる。

ひかりは、
目を開けたまま、しばらく動かなかった。

隣に、
人の気配がある。

それだけで、
昨夜が夢じゃなかったことを思い出す。

寝返りを打つと、
シーツがわずかに擦れる音がした。

起こさないように、
呼吸を整える。

直は、
静かに眠っていた。

バーに立っているときとは、
まったく違う顔。

眉間の力が抜けていて、
いつもより、少し幼く見える。

ひかりは、
その横顔を見つめながら思う。

——ああ、
この人、ちゃんと寝るんだ。

そんな当たり前のことが、
なぜか新鮮だった。

腕の位置。
シーツのしわ。
触れそうで触れない距離。

全部が、
今朝の温度を持っている。

昨夜のことを、
ひとつひとつ思い出す。

急がなかったこと。
確かめるみたいな触れ方。
言葉よりも、
間を大事にしていたこと。

ひかりは、
胸の奥が静かに満ちていくのを感じた。

不安は、ない。

期待も、過剰じゃない。

ただ、
「一緒に朝を迎えた」という事実が、
ちゃんとここにある。

直が、
小さく息を吸って、
ゆっくり吐く。

そのリズムに合わせるみたいに、
ひかりも、深く息をした。

——コーヒーの音がしない朝。

それが、
こんなに落ち着くなんて。

ひかりは、
そっと目を閉じて、
もう一度だけ、眠るふりをした。

この人と迎える朝が、
これから増えていくかもしれないことを、
まだ、言葉にしないまま。