兄は一瞬だけ雨を見上げて、それから私の方を見た。
特に焦った様子もなく、いつも通りの声で言う。
「ほら、嵐の中でも咲く花ってあるだろ」
私は眉をひそめる。
「……なにそれ」
「チューリップとかさ、茎が折れそうでも意外と耐えるんだよ。今日の天気はそういう日。見た目は最悪だけど、実は成長イベント」
兄はそう言って、玄関の内側で傘を軽く揺らした。
まるでこの豪雨が、花に水をやる程度のものみたいに。
私の中で、妄想がさらに加速する。
――成長イベント?
――やっぱり学校側の思想が入り込んでる。
花。成長。耐える。
それ、絶対どこかで聞いたことある。
朝礼とか、進路説明会とかで。
脳内では、校長が壇上に立っている。
背後のスクリーンには、暴風雨の中で咲く一輪の花。
「困難な環境でも登校できる生徒こそが――」
そこまで想像したところで、雨が強く吹きつけ、ドア越しにも分かるほどの音が鳴った。
「ほら見て。花どころじゃないでしょこれ」
半ばキレ気味に言う。
