これは恋か、妄想か。



玄関のドアを開けた瞬間、世界がひっくり返ったみたいだった。


雨は「降ってる」というより「落ちてきてる」。しかも横殴り。風が本気すぎる。


一歩も外に出てないのに、もう靴下が濡れた気がした。



「……いやいやいや」



ここで、頭の中のスイッチが勝手に入る。




――こんな豪雨なのに、なんで休校じゃないんだ?



普通ならもう決定メールが来ててもおかしくなくない??

「本日は安全を考慮し休校とします」って、校長の無難な文章が。



……なのに、ない。

おかしい。
これはもう天気の問題じゃない。


脳内で、黒板が現れる。



本日のテーマ。

“なぜ学校は休まないのか”


仮説①
学校側は、試されている。
この雨を乗り越えて登校できるかどうかで、生徒を選別している。
風に逆らって歩ける者だけが、次の学年に進めるシステム。

仮説②
気象庁と学校はグル。
「警報は出さない」「休校はさせない」
すべては出席率データを取るための壮大な実験。

仮説③
もっと闇が深い。
校舎の地下に何かある。
だからどうしても今日、生徒を集める必要がある。



結菜は一瞬、兄を見る。

――お兄ちゃんは知ってるのか?

――いや、知らないフリをしてるだけか?


雨音が一段と強くなる。
まるで「気づくな」と言われているみたいに。

「……」



結菜は深く息を吸う。

これはもう行ったら負けなのでは?休校にしない学校側の思惑に、まんまと乗せられるのでは?

そんなことを考えてる間にも、時間は進む。
遅刻まで、あと〇分。


……私は悟る。



――ああ、これだ。


この豪雨すら乗り越えて来る生徒だけが“普通に扱われる”世界なんだ。


そう思った瞬間、現実に引き戻される。



「……お兄ちゃん」

低い声で、結菜が言う。


「この雨で学校あるのおかしくない?」

ここでようやく、妄想が現実とぶつかる。