これは恋か、妄想か。



コーヒーを注ぎながら、まるで市場で花を選ぶかのような真剣な顔をしていた。

「母さん、朝からスズラン飛ばしすぎ。そのテンション、昼にはしおれるタイプだよ」

「まぁまぁ颯太くん。恋は咲いた瞬間が一番美しいのよ?」

「スズランは可憐だけど毒あるからね。結菜が近づくときは注意してあげて」

「私、毒耐性ない前提なの!?」

お兄ちゃんはようやく私の方を見て、ふっと柔らかく笑った。

「でもさ」

そう言って、私の頭の上に手を置く。

「結菜は今、ちょうどいい」

「……何が」

「朝露に濡れたガーベラ。無防備だけど、ちゃんと自分の色で立ってる」

「やめて! 朝から妹を花に例えないで!!」

即座に突っ込むと、兄は少しだけ目を細めた。兄は花好きなのでよく花で例えた謎の表現をしてくるり



「いいだろ。花屋の特権」

「それ特権じゃなくて性癖でしょ!」

お父さんが、メモ帳から顔を上げる。

「……ガーベラか。だとすると、犯人は誰だ? 水をやったのは?」

「お父さん黙って!! 朝から事件起こさないで!!」


兄はコーヒーを一口飲み、静かに言った。


「大丈夫。この家の花は、誰かが勝手に枯らしたりしない」

それから、少しだけ真面目な声で付け足す。


「特に結菜は。俺がちゃんと、毎日様子見るから」


……重い。シスコンの言葉が、朝の空気にずしりと根を張る。


「ほら見て結菜ちゃん! これも愛の告白よ!!」

「違うから!! これは兄の過保護!!」

わちゃわちゃと騒ぐリビングで、兄だけがどこか満足そうに微笑んでいた。


「もう……私、学校行くからね!」

 
私はカバンをひっ掴み、個性の煮込み料理みたいなリビングを脱出した。


背後で

「結菜、不審者に気をつけるんだぞ!」

「愛の折り返し地点で待ってるわね!」


という両親の声が聞こえた気がするけれど今は全力でスルーだ。


玄関で靴を履いていると、お兄ちゃんがひょいと顔を出した。