私は最後の一口のトーストを口に運んだ。
そのときだった。
「……あー、もう咲いてるな、この家」
階段の方から、眠そうでいてどこか達観した声が降ってくる。
見ると寝癖をあちこち跳ねさせた青年が、片手で目をこすりながらゆっくり降りてきていた。
我が家の長男である。小野 颯太。二十歳。お花屋さんでバイト中。そして――筋金入りのシスコンである。
「おはよ、結菜」
「おはよう。……何が“咲いてる”の」
私がそう言うと、お兄ちゃんはリビングを一瞥した。
恋愛詩人モード全開のお母さん。
メモ帳を手放さず、なおも事件の可能性を探るお父さん。
その中央で、トーストをかじる私。
颯太は小さく息を吐き、首を傾げる。
「カオスの花壇が満開だなって意味」
「いや花壇で済ませないで!? 明らかに異世界植物混ざってるから!」
私のツッコミを聞き流し、颯太はキッチンへ向かう。
