これは恋か、妄想か。



「……次は、それ」


満足げにポテトサラダの「概念」を消化し終えたハルが、ゆっくりと目を開けた。

だが、彼は箸を持つ代わりに、気だるげに私の弁当の真ん中で踏ん張っているタコさんウインナーを指差した。


「またかよ! いい加減にしなよ、自分のタコさんもそっちで八本足広げてるでしょ!」

「無理。……その赤い多足類、足が多すぎて、どっちから噛めばいいか迷ってるうちに日が暮れる。……結菜、その生命体がどうやって俺の『決断力』を導いてくれるのか、詳しく教えて」


……ウインナー一本に人生の決断を委ねるなよ!!


もはや断るエネルギーすら奪われた私は、半分ヤケクソでタコさんを口に放り込んだ。
 

「……ええい、いくよ! まず、プリッとした皮の抵抗。これは現状に甘んじない挑戦的な弾力! それを噛みちぎった瞬間、溢れ出す肉汁は、迷いを断ち切る情熱の奔流! 今、口の中で八本の足が躍動し、私の舌という名のステージで自由のダンスを踊り狂っているよ! ……どう、進むべき道、見えた!?」

「……。見えた。今、俺の心の、暗雲が晴れた」
ハルは満足そうに目を閉じ、再び「概念の眠り」に落ちようとしている。


暗雲晴らす前に、自分の弁当のタコを成仏させてやれよ!!


その時、背後から「おおお……!」という、地鳴りのような感動の声が上がった。


「聞いた……? 今、叙事詩様(結菜)の言葉によって、遥様の迷いが払拭されたわ……!」

「ウインナーを『情熱の奔流』と表現するなんて……もはや現代の預言者(よげんしゃ)よ……!」

預言者じゃないし、ただの魚肉練り製品だよ!!


「ハロー! 素晴らしい『加工肉の黙示録』だったよ、結菜ちゃん!」


教室の扉が勢いよく開き、白鳥美月さんがいつもの華やかなオーラを撒き散らしながら現れた。

その手にはどこから持ってきたのか分からない金色のマイクが握られている。  


「今のウインナーの実況、最高にクリエイティブだった! 遥くん、今のを校内放送の進路指導コーナーのBGMに採用するのはどうだい? 悩める受験生たちが、みんなタコさんのように力強く踏み出せるはずだよ!」

「白鳥さん、勝手に公共事業にしないで! 私はただ、この咀嚼拒否男の代わりに喋らされてるだけだってば!!」