「結菜、それ。味教えて」
ハルが机に突っ伏したまま、じっと私のポテトサラダを見つめている。
自分の弁当には手を付けず、ただじっとその質感を観察している。
「食べるの? はい、あげるよ」
「いい。今は噛むのが面倒。結菜が食べて、食レポして。それを聞いて俺が満足するから」
……新手のラジオ番組かよ! 自分の舌で味わえよ!
ハルは私のツッコミをスルーして、私がポテサラを口に運ぶのを、ドキュメンタリー番組でも観るような真剣な眼差しで見守り始めた。
「ハル。あんたが私に『味見代行』させてるせいで、クラスメイトたちが『遥様が毒見をさせている! まるで王朝の主従関係だわ!』って涙ぐんでるんだけど」
「主従。まあ、間違いじゃない。ほら、もっと詳しく。じゃがいもの潰れ具合とか、マヨネーズの加減とか。言葉で、俺の脳を満たして」
「満たされるな! 自分で一噛みすれば終わる話だろ!!」
と言いつつ、ハルのあの「一切動く気がない、一点を見つめる虚無の瞳」に負けて、私はポテトサラダをスプーン一杯分、口に運んだ。
「……ん。まず、じゃがいもね。これは完全に潰しきってないタイプ。ゴロッとした塊が奥歯に当たって、ホクホク感がすごい。で、マヨネーズは少なめで、隠し味のマスタードが後味をピリッと引き締めてて……」
「……続けて」
ハルは目を閉じた。私の声から味を抽出し、脳内でエア食事を楽しんでいるらしい。
「あと、きゅうりのシャキシャキ感がアクセント。噛むたびに瑞々しさが脳内に直接響く感じ。今、私の口の中は、じゃがいもの大地とマヨネーズの慈愛に包まれてるよ。……満足した?」
「足りない。ハムは。ハムの存在感、教えて」
「ハムの指定までするなよ! ……ええい、ハムね。これは厚切り。噛むと脂の甘みがじゅわっと広がって、じゃがいもの素朴さを一気にゴージャスに引き上げてる。はい、おしまい。私の口はもうパンパンだよ!」
私がヤケクソで実況を終えると、ハルは「……ふぅ」と、まるでお腹いっぱいになったかのような満足げな吐息を漏らした。その拍子に、無防備な首筋から「夜の王」特有の色気が微かに漂う。
いや、そもそも『夜の王』って何だよ。ただの『咀嚼拒否男』だよ!?
その時、背後から鼻をすする音が聞こえた。
「見た……? 毒見役(結菜)の言葉だけで、遥様が『概念としての食事』を済まされたわ……」
「言葉だけで遥様を満たすなんて、あの毒見役、もはや『歩く叙事詩』ね……」
叙事詩じゃないし、音声デバイスでもない! ただの食レポだよ!!
