「おはよう……お母さん」
私が声をかけると、母はぱっと振り返った。
「あらあら、結菜ちゃん。おはよう。いい朝ね。今日はきっと、何か素敵な予感がするわ」
根拠はない。
が、母は常に予感している。
席に着こうとしたそのとき、リビングの隅に、もう一人の異物を見つけた。
険しい顔でメモ帳を睨み、ペンを走らせている人物。
父だ。
「……結菜、おはよう」
顔を上げずに言う父。
その目は鋭く、すでに何かの事件を追っている目だった。
「今、朝食用ジャムの減り具合から、昨夜この家に侵入者がいた可能性を検討している」
「朝から何の話!?」
「不自然なんだ。昨日より、明らかに三ミリ多い。これは単なる誤差か……それとも――」
父は人気ミステリー作家である。
その才能は、日常生活においても一切の手加減なく発揮される。
「……あるいは、このトーストの配置。何かの暗号では?」
「それ、お母さんが適当に置いただけだから!!」
即座にツッコミを入れないと、話が本格的にややこしくなる。
私は椅子に座り、トーストを齧りながら、二人の相手をする。
……これが、我が家のいつもの朝だ。
