これは恋か、妄想か。




ハルの上着に包まれ、彼の傘の内側に強制収容された状態で、私は目の前の金髪くんを見た。

彼はまだ、雨の中でUMA――未確認生命体の捕獲シーンでも目撃したみたいな目で、私を凝視している。

気まずい。
数秒前までエビとして全能感に満ち溢れていた自分を、今の自分が全力でシュートしてゴールポストに叩き込みたい。



「……あ、の」


震える声で口を開くと、金髪くんの眉間がぴくりと動いた。


「おい……お前。今の、何なんだよ」


怒っているというより、確認だった。
自分の正気がまだ保たれているかどうかの確認。

私は肩に掛かったハルの上着をぎゅっと握りしめ、目を逸らしたまま答える。


「……エビ、です」

「は?」

「エビの、求愛……。披露宴とかで喜ばれるタイプの、ご挨拶的なやつで……」

「……」

金髪くんの顔から、感情という感情がすっと消えた。
今まで見たことのない「虚無」の表情。

隣でハルが、ため息混じりに、でもどこか楽しそうな声を漏らす。


「……それを今、説明しちゃうんだ」

「お前……マジで頭おかしいだろ」


ようやく吐き捨てられた言葉。けれどそこにさっきまでの敵意はなく、完全に手に負えないものを見たという諦めだけが残っていた。



「……ハル。私、やっぱり今から深海に帰るわ」

「ダメだよ。海まで遠いじゃない?」

ハルは私の情けない泣き言を、あやすみたいに軽く流すと、金髪くんの方へ視線を向けた。

「……ごめんね。この子、ちょっと今エビモードなだけなんだ。悪気はないから、許してあげてくれないかな」

エビモードというパワーワードが、雨空に落ちる。

金髪くんは、ハルの落ち着きすぎたトーンと、上着に包まれてエビの殻みたいになっている私を交互に見て、ついに力なく首を振った。


「……もういい。関わったら死ぬ気がする」


濡れた髪をかき上げ、彼は逃げるように背を向ける。

足早に去っていく背中には、不良のプライドなんて欠片もなく、ただ一刻も早くこの場を離れたいという生存本能だけが見えた。

勝った。
なぜか、確信だけが戻ってくる。

エビの求愛ダンスは、重要キャラの戦意を根こそぎ奪い去ったのだ。

「……ねえ、結菜」

ハルが傘をさらに私の方へ傾け、至近距離で囁く。

「……何、ハル」

「それ、すごくキレッキレだったけど……もう封印したほうがいいんじゃないかな?」

「……え」

ハルはふいっと視線を逸らし、それでも私の肩を抱くみたいにして一歩踏み出す。

校門前には、不良の去った静寂と、私のエビの伝説だけが残った。