不良たちが、最後に一度だけこちらを振り返り、それから雨の向こうへクモの子を散らすように去っていく。
校門前に残ったのは、バケツをひっくり返したような雨音と、私の周囲にだけ発生した触れたらケガをするタイプの澄んだ沈黙だけだった。
そして。
「……」
強烈な視線を感じて、私はようやく気づく。中心にいた、金髪の人。さっきまで、私のクラステーション・ラヴの波動を真正面から受け止めていた、あの重要キャラ。
彼はドン引き、という概念をそのまま人間化したような顔で、完全に固まっていた。
目は、ゴミを見る時よりもう一歩踏み込んだ、未知のUMAを観測する時みたいな細められ方をしている。
固く引き結ばれた口元は、何かを言いたいというより、関わったら負けだという理性が必死にブレーキを踏んでいる証拠だった。
雨に濡れた前髪の隙間から向けられるその視線は、好意でも敵意でもない。
もっとシンプルで、もっと剥き出しの感情。
――困惑。
「え、何こいつ……何、お前……」
雨音に紛れて聞こえてきた低い声。
そこに怒りは、一ミリも混じっていなかった。
ただ、駅前で急に叫びだした人を見た時のどう扱えばいいのか分からない、いや、そもそも脊椎動物として同じ分類でいいのかを疑う、本能的な引き気味の戸惑いだけ。
その一言が耳に届いた瞬間
私の脳内に鳴り響いていた壮大なオーケストラと、キラキラ輝く無敵スターのBGMが、カセットテープを無理やり引きちぎったみたいな音を立てて、全部消え失せた。
一気に、現実。
さっきまでの私は「お兄ちゃんの予言もこの土砂降りも、すべてはエビになるための伏線だったのね!」なんて悟りを開いた聖人みたいな顔でさ。
不良を傘で蹴散らし、披露宴で全親戚を黙らせたエビの求愛ダンスを全力で踊り狂い、宇宙との一体感さえ感じながら勝利宣言をしていた女。
それを。
真正面から初対面の、たぶんちょっとイケメンの男子に。瞬きする間も与えず。フルコースで見られている。
「……」
深い底なしの「間」が私と彼の間に落ちた。さっきまで生命の神秘を表現していた私の指咲は、今やただ、エビの形のままマヌケに空を切っている。
「いや、その……」
何か言わなきゃ、と思うのに、さっきまで滑らかに回っていた口が、急に錆びついた機械みたいに重くなる。
脳内では今の動きはフェイクで、本当は格闘技の構えなんですという苦しすぎる言い訳が、秒速で却下されていく。
説明?
無理。
言い訳?
無理。
「エビとして覚醒してました」なんてどこの世界線でも、たとえ親戚の披露宴会場であっても、ましてや校門前で一人でやっていい理屈じゃない。
