これは恋か、妄想か。




ふふ、効いてる。


新婦に捧げたあのダンスがまさか校門前で「不良退散スキル」として再使用されるなんて。


人生、伏線回収が雑すぎる。


そのとき。背後で微かな気配が動いた。



振り返ると、ハルが片手で口元をぎゅっと押さえ、肩を小さく震わせていた。




「……っ、ふ、ふふ……」



漏れた声は、完全に笑いを堪えきれていない音。私と不良たちを交互に見て、彼は本当に楽しそうに、声を殺して笑っている。



「ふ、……何それ、結菜。……最高にバカ。バカすぎてかわいい」



披露宴で世界を制圧した技は、校門前で不良を退散させ、幼なじみの笑いを制圧した。


どうやらエビの求愛ダンスは、二度目の使用でも効果は絶大らしい。    


ハルの柔らかい笑顔と逃げ惑う不良たちの背中を見送りながら、私はふっと天を仰いだ。



顔に当たる雨粒が、もう冷たくない。

それどころか、今の私にはまるで偉業を成し遂げた者に捧げられる、祝杯のシャワーみたいにすら感じられた。


ああ、そうか。
全部、全部――繋がってたんだわ。

お兄ちゃんが朝から「風がいい」なんて意味不明なことを言ったのも。

予報になかった土砂降りが、私を容赦なくずぶ濡れにしたこと。学校が休みにならなかったのも。鉢合わせてしまった不良達も。そして今朝のあの夢も。




「……全ては、この瞬間のためだったのね。私は今日、この場所で――エビとして覚醒するために、ここへ導かれていたんだわ」

そう。
これは偶然なんかじゃない。

宇宙規模の巨大なピタゴラスイッチが、ガシャン、と音を立てて、最後のピースをはめ込んだ。


そんな、はっきりとした感触があった。

私は雨でぐちゃぐちゃになった前髪をかき上げ、どこか遠い地平線を見つめるみたいな、
自分でも驚くほど晴れやかな顔で、言い放つ。



「……私の人生に、無駄なことなんて一つもなかったわ」

「いや、ある。絶対ある」



すぐ隣で、ハルがまだ笑いを含んだ声で、即座にツッコんでくる。


でも今の私には、その言葉ですら舞台が終わった後に響くアンコール!の歓声みたいにしか聞こえなかった。


ねえ、お兄ちゃん、見てる?


あなたの妹、今――校門前で世界と和解したよ……!

雨は相変わらず降り続いている。

それでも私の心の中には今朝の披露宴のラストシーンみたいなまばゆいばかりの虹が確かに架かっていた。