これは恋か、妄想か。



「やっぱりハルは下がってて! この雨は私の味方……いいえ! 私自身の輝き、エフェクトなのよ!!」


恐怖の限界を突破した瞬間、私の脳内で何かが音を立てて千切れた。


理性とか、常識とか、女子高生としての社会的信用とか、そういう細々したものが。

今や私の視界に映っているのは、不良たちを取り巻く不穏な空気なんかじゃない。


金色に光り輝く「無敵スター」をゲットした瞬間のBGMが、爆音で鳴り響いている世界だ。


「……ハッ。お前らみたいなイベントの障害物、モブに、私のヒロイン・フラグは折らせないんだから!!」

「……え、結菜? ちょ、そっちに行っちゃ──」

ハルの制止も、雨音も、もはや私を止めるブレーキにはならなかった。

私は自分の傘を握り直す。それはもはや、ただのビニール傘じゃない。


伝説の聖剣か、あるいは天から啓示を授かった魔導杖だ。



「聖なるスプラッシュ・バーストォォォ!!!」



私は無防備に一歩踏み込み、さっきのハルを完璧にトレースする勢いで、傘をバサバサッと高速で開閉した。


遠心力で弾き飛ばされた雨水が、水の散弾銃となって目の前の不良に襲いかかる。



「ぶほっ! おまっ、やめ……!」

「止まらないわよ! 次はそっち!!」

そのまま私は、後ろで高みの見物を決め込んでいた金髪の彼――もとい、重要キャラの取り巻きたちに向かって突進を開始した。

「はははは! 見なさい、天から降り注ぐこの聖水……ただの雨が、あなたたちの邪気を浄化していくわ!! ほら、清まりなさい! ついでにその不吉な金髪も……あ、それは地毛かもしれないから保留!!」

「うわ、なんだよこの女!」
「傘、傘が当たる!」
「水がっ、目がぁぁ!!」



不良たちは予想だにしない女子高生による傘の乱舞攻撃に完全に混乱し、一人、また一人と後退していく。



私の目には、その狼狽が「浄化されていく悪霊の断末魔」にしか見えていなかった。