これは恋か、妄想か。



雨に濡れたスニーカーが、ぴちゃっ、と不吉な音を立てて水を跳ねさせる。

それだけで、私たちに向かって歩いてきた男の距離が暴力的な速さで縮まったのが分かった。


着崩した他校の制服。肩の力が抜けた立ち方をしているのに、蛇に睨まれたカエルになったような圧迫感がある。その濁った目つきが、私とハルを品定めするように、順番に見比べた。


そして、私の妄想回路がはじき出した「最悪のセリフ・ランキング第1位」が、寸分違わず現実のものとして落ちてきた。



「お前、こいつの女か?」



ほら!
来た! 来たよこれ!来ました!

脳内でプロットした通りの教科書みたいな絡まれセリフ。

未来予知か、あるいは私の人生がベタな少女漫画の脚本にハッキングされてるの!?



「ち、違います!」

反射だった。考えるより先に、全自動で首をぶんぶん振っていた。


違う違う違う! 全然違う!

そういうトレンディな関係じゃないし、そもそも今朝はお兄ちゃんの予報のせいで前髪もコンディションも最悪なんだよ!


そもそも恋愛イベントを起こすための「美少女補正」もメイクも完了してないんだから、今このタイミングでメインシナリオを進めるのはルール違反でしょ!