これは恋か、妄想か。



距離が、確実に縮まっている。数メートル分、死亡フラグが近づく感覚。

私は反射的に、ハルの濡れた袖をぎゅっと掴んだ。

「ねえ、これさ私今『通行人B』から『ヒロインB』に昇格したよね? まだ何もしてないのに。目が合っただけで強制契約でしょ!」

「おめでとう、めでたいねぇ」

「めでたくない! 絶対このあと勘違いされる流れ! 『なんだ、そいつお前の女か?』って言われて、彼が冷たく違うって突き放しても結果的に私が拉致されるやつ!」

「そこまで想像できるの、逆にすごいよ」

「やだやだやだ! 拉致された先で、実は彼が大富豪の息子だったりとかして、私はお兄ちゃん並みに面倒な騒動に巻き込まれるんだわ!」

拒否しているはずなのに、足は動かない。
今逃げたら、「追う側の本能」に火をつける。それくらいは分かる。


私はもう一度、幼なじみを見る。


「……一応聞くけど。これ、私一人で処理するソロクエストじゃないよね?」


ハルは少しだけ考えてから、眠たそうな目のまま、でも自然に私の腕を支えた。


「一人じゃ、無理だと思うよ。さすがに」


一拍置いて、付け足すみたいに言う。


「……一応、パーティー組もうか」


その一言で、胸の奥で渦巻いていた妄想の濁流が、ほんの少しだけ落ち着いた。

――よかった。

ちゃんと、初期装備の仲間がいる!

私は深く息を吸う。雨は止まない。

イベントはもう、スキップ不可のムービーに入っていた。