これは恋か、妄想か。


校門が見えたあたりで、私はふと足を緩めた。

なんだろう。空気が妙にざらついている。湿っているのに、落ち着かない。そんな感触。

自然と、視線が前に引き寄せられる。


校門の外側。
そこに、数人の男子が固まって立っていた。



――金髪。


一瞬で、そこだけ色が違って見えた。雨に濡れているのにやたら目立つ、軽い色。同じ制服のはずなのに、着方がまるで違うせいで、完全に別カテゴリの存在みたいだ。



「あ」



思わず、声が漏れた。



「どうしたの」



横から、ハルが眠そうに聞いてくる。



「……イベント」

「は?」

「イベント発生してる」



私は目を細めたまま、校門付近を指さした。



「あそこ。あの金髪の人」

ハルはちらっとそちらを見て、それからすぐに、あまり興味なさそうに視線を戻す。


「不良っぽいね」

「ぽいじゃないよ。完全にそうだよ」


私の中で、何かがカチッと音を立てた。


このタイミング。この雨。この校門前。


どう考えても、ただの登校風景で終わる気がしない。


「ねえハル」

「ん?」

「これ、たぶんだけど」


私は眉を顰めて、声も潜める。


「この後、選択肢出ると思う」

「選択肢?」

「うん。近づく、逃げる、見なかったことにする、みたいな」

「ゲーム脳だね」


淡々と言われる。

でも、私はいたって真剣だった。

だって、金髪の人は、他校っぽい制服の男子に囲まれている。距離感が近い。

声は聞こえないけど、雰囲気だけで分かる。穏やかじゃない。



「これさ」



私は続ける。

「下手すると、巻き込まれるやつ」

「へぇ」

「で、たぶん私は」


少しだけ、間を置いた。


「…主人公補正で、変な役割振られる」

「嫌だね」



即答だった。

「嫌でしょ? 私も嫌」


そう言いながら、なのに、目は逸らせない。


雨に濡れた校門。向かい合う不良たち。通学途中の、私たち。

頭の中で、勝手にストーリーが組み上がっていく。これは序盤イベント。ここで何かが起きて、後から関係者になるやつだ。



「ねえハル」

「なに」

「もしあの人が、実は重要キャラだったらどうする?」

「どうもしないよ」

「冷た」

「結菜が勝手に意味付けするんでしょ」


その通りすぎて、言い返せなかった。私はもう一度、金髪の人を見る。


その瞬間、他校の不良の一人が、こちらに気づいた。

目が合う。

にやっと、口元が歪んだ。


「……あ」

嫌な予感が、はっきりと現実になる。

次の瞬間、低い声が飛んでくる。


「なに見てんだよ」


――ここから、逃げ場がなくなる。