これは恋か、妄想か。


雨は、さっきより少しだけ弱まった……気がした。

気がしただけで、実際は相変わらず容赦なく降っている。


……朝、目を開けた時、カーテンの隙間から差し込んでいた光は、やけに素直で、嘘のない晴天だった。

その時点で、世界は一度、私を油断させている。

しかも思い出してくれ。玄関を出る直前。
お兄ちゃんは、いつもの花屋的天気予報を口にしていた。


「今日は風のいい日だね。花が揺れるやつ」

とかなんとか言ってた。言い方がもう、嫌な予感しかしなかった。

今思えば、あれは比喩じゃなかったのかもしれない。花が揺れるどころか、世界ごと揺らしにきている。

水たまりを避けようとして失敗し、私は盛大に水を跳ねさせた。
靴の中に入り込んだ水が、遠慮なく存在感を主張してくる。

靴の中が、完全に終わった感触になる。


「……あ、」


思わず声が漏れる。

「やばい?」

ハルが、少しだけ覗き込むように聞いてくる。

傘の下で、彼の黒髪が雨を含んで、いつもより少しだけ色を深くしていた。

ツーブロックの刈り上げ部分は濡れても崩れなくて、前髪だけが額に沿って流れ、視線の動きに合わせて静かに揺れる。

その無造作さが、なぜかこの豪雨の中でも様になっているのが腹立たしい。

「やばいよ。もうこれは濡れたじゃなくて所属だよ。私、今日から雨属性」

「へぇ。じゃあ耐性ついたね」

軽い。
この豪雨を前にして、その結論。

私は一瞬、真顔になってから、また考え始めてしまう。


──耐性。


やっぱりそうだ。
これは偶然の雨じゃない。


学校がどうとか、陰謀がどうとか、その前に一番近くにいた人物を、私は思い出してしまった。

お兄ちゃんだ。


花屋的天気予報。
抽象的で、結果だけ当たるやつ。

まさかとは思うけど。
あの人が風がいい日と言った瞬間に、世界が帳尻を合わせにきた可能性……あるのでは?

いや、さすがにそれはない。
ない、はず。

でも完全に否定できないのが、怖い!