ドアを閉めた瞬間、世界の音量が一段階上がった。
雨粒が傘に叩きつけられる音。
アスファルトに弾けて跳ね返る水、風に煽られて街路樹がざわめく低い唸り声。
それらが一斉に私に向かって流れ込んできて、思わず肩をすくめる。
これはもう「雨の日」じゃない。
イベント発生中のフィールドだ。
一歩踏み出すたびに靴の中に冷たい感触が広がっていくのが分かって私は心の中で小さく舌打ちをした。
どう考えても異常気象。どう考えても休校ライン。それなのに、世界は何事もなかったみたいに登校を要求してくる。
この時点で、すでに怪しい。
門を出て数メートル歩いたところで、道の向こうに見慣れた人影があった。
傘を差しているのに、どこか無防備で、雨の存在を半分くらい忘れていそうな立ち方。
幼なじみのハルだった。
制服のフードを被るでもなく、ただ傘を肩に引っかけるようにして立っていて、眠たそうに目を細めながら、落ちてくる雨をぼんやり眺めている。
その様子があまりにも自然で、ここが豪雨の真っただ中だという事実が一瞬だけ現実味を失う。
「おはよ」
私が声をかけるより先に、ハルが気づいて、のんびりした声でそう言った。
「……おはよう」
返事をしながら、私は内心で思う。
この人、たぶん今も半分寝てる。
「すごい雨だね」
ハルはそう言って、傘の縁から落ちる水を目で追った。
驚きも、焦りも、困惑もない。ただ事実を確認するみたいな口調。
「すごい雨だよ。災害一歩手前だよ」
私がそう言うと、ハルは少しだけ首を傾げる。
「でもさ、学校あるんでしょ」
その一言で、私の中の妄想が再び動き出す。
