これは恋か、妄想か。



「風がいいとか言ってたけどさ、これもう花吹き飛ぶやつだよ。根こそぎ」


お兄ちゃんは少しだけ笑って、

 
「でも、全部が折れるわけじゃない」


と、妙に優しい声で返す。

その瞬間、私は確信する。



――やっぱり知ってる。


――学校側の思想を、知らないうちに刷り込まれてる。



私の妄想の中では、職員室がはっきり映る。
先生たちが円になって座っている。

「今日は風が強いですが、あえて休校にはしません」

「逆境耐性の観測日ですから」


そんな会話が、やけにリアルに聞こえてくる。私は思わず肩をすくめた。


「ねえ、お兄ちゃん」

「ん?」

「もしさ、この雨でも普通に登校したら、あとで『よく耐えました』とか言われる世界だったらどうする?」

お兄ちゃんは少し考えてから、

「それはたぶん、花が咲いたってことなんじゃない?」

なんでもないみたいに言う。

私は言葉に詰まる。



――花が咲いた扱い、されたくないんだけど。
――勝手に評価されるのも、成長扱いされるのも。



雨は止む気配がない。
むしろ、さらに勢いを増している。

私の中で、最後の妄想が芽を出す。


もしかして、この豪雨自体が演出なんじゃないか。本当は晴れてる日が用意されてるんじゃないか。


校門をくぐった瞬間、嘘みたいに晴れる。


「お疲れさまでした、選ばれた生徒の皆さん」

そんな未来まで見えたところで、私は現実に引き戻される。


お兄ちゃんは玄関の内側に立ったまま、ドアに手を添えた。

「行ってこい、結菜。花は外で咲くもんだ」

私は傘を握りしめる。

「……やっぱり怪しい」

そう呟きながら、ドアノブを回す。
外に出た瞬間、雨は容赦なく叩きつけてきた。

背後で、ドアが静かに閉まる音がする。

私の妄想は、まだ止まりそうになかった。