最強女子にも帰る場所がある~Choice your back home~

 ハデースを撃ったのは暗闇から姿を現したボスだった。


「ボス、久しぶり。」


 ボスとは電話で話したことはあっても対面で会話をするのはあの約束の日以来である。

 撃たれて私にもたれかかるハデースを床に置いて楽にさせる。


「あぁ、ジェヘナ。久しぶりだな。」


 ボスがジェヘナ呼びしている。

 ということは、上司と部下の対話が始まる。

 ボスは私に四十五ミリ口径の銃を向ける。


「一年間大人しく過ごす約束だったろ?」

「でも、人は殺していません。ただ、人助けをしていただけです。」

「その人助けが普通じゃないんだ。」


 本当にそうだろうか?


「そうですか?」

「何?」

「私は、普通の人助けというものが自分のできる限りのことの範囲でするものだと思う。ただ、私の場合は他の人よりできることが多くて、恵まれただけ。」

「………ふん。」


 ボスは銃を下ろし、


「普通として成長させるつもりが今度は屁理屈を言うのを覚えたか。」


 そうため息を吐いた。


「まぁ、いい。ジェヘナ、今日でお前は夜汰烏から除籍(クビ)だ。」

「分かりました。」


 煙草を吸いながら建物の奥の闇に消えようとするボスの背中。

 でも、見えなくなる前に伝えたいことがあった。


「ありがとう、お父さん。」


 ボスにとって私は都合のいい部下だったかもしれない。

 それでも、訓練以外は実の娘のように育ててくれた。

 成果を出したら頭を撫でて褒めてくれた。

 たまに、任務で納得できないようなことがあったらとことんアドバイスをくれた。


「ふん、俺はお前の父親じゃねぇよ。」


 そう煙草の煙と一緒に短く吐き捨て、完全に消えていった。

 その後のボスはどうしているのか知らない。

 だけど、ボスのことだからきっとどこかで見守ってくれていると思う。


「………ふぅ…。やっぱり、娘なんて持つもんじゃねぇな…。」


 某倉庫の裏口付近にて、そこには一滴の雫の跡と“月下馨”と書かれた身分証が煙草と一緒に捨てられていたそうな。