最強女子にも帰る場所がある~Choice your back home~

 三年二組に向かう。

 中の状態を壁と一体化するように伺う。


「っ…。」


 中には霞先輩と不審者の二人だけ。

 恐らく、不審者は霞先輩を人質に取った。

 あるいは、霞先輩が人質を申し出たか。

 ついでに、三年二組以外の他のクラスからは人の気配はしない。

 恐らく、避難している。

 さて、あと五十秒で片付けよう。

 扉に近づく。


「伝説の殺し屋の“ジェヘナ”は知っているか?ある人物にそいつを消すのを頼まれてここにやって来た。」

「俺はジェヘナなんて知らない。」

「本当か?嘘を吐けばお前の首だけじゃなくてこの学校の全員が死ぬぞ。」


 もしかして、雪斗が言っていた


『……何者かが美夜を狙っている、って。』


 という情報のことだろうか。


「知らないもんは知らない。」


 さて、あの四十秒。

 お喋りを佳境に入った頃合いか。

 ガラッと、扉を開ける。


「美夜!?」

「馬鹿な…。鍵は閉められていたはずだろ。」


 ピッキングは暗殺の基礎の一つである。

 不審者との間合いを詰めて目に偶然ポケットに入っていたスーパーの特売シールを貼って目を開けれないようにする。


「は!?見えねぇ…。」


 ナイフを振り回して、顔からシールを剥がす不審者。

 しかし、シールが剥がれて視界が開けた瞬間、それは不審者の詰みである。

 視界が開けるのと同時に、


「カーテン!?」


 カーテンによって簀巻きにされて身動きが取れないのだから。

 ここまでが三十秒だ。

 危険分子でなくなった不審者にこれ以上用事はないので、霞先輩のほうへ行く。


「霞先輩、大丈夫ですか?」

「あぁ、俺なら大丈夫だ。」


 霞先輩は紐で拘束されていた。

 この時代にPPバンドではなく紐とは…。

 しかし、紐なので霞先輩が少し肩を動かしただけで紐は千切れた。

 流石である。

 というより、


「霞先輩、どこも怪我はありませんか?」

「ない。」

「ならよかったです。」


 ホッと一安心する。

 不審者を拘束するときはそのことばかりがずっとよぎっていた。

 もし、霞先輩の筋肉に傷でもついたら…。

 絶対に許すまじ、と言って拘束だけじゃなく気絶ギリギリにまで追い込むところだった。


「おい、お前がジェヘナだな!」

「知らない。」

「その身のこなし知ってんだよ!お前、夜汰烏のだろ?」


 組織名までバレているのか…。


「それ、誰から聞いたの?」

「“ハデース”だ。」

「そっか。私がジェヘナだって言うつもり?」

「あぁ。」

「そっか。あ…。」


 そう言えば霞先輩がいるの忘れてた…。


「美夜、ジェヘナって…。」

「………。」


 その後、不審者は騒ぎを駆けつけた警察によって逮捕された。


「……事情は分かった。だけど、もうあんな危ないことをするな。」


 霞先輩には一通り話した。

 殺し屋のジェヘナであると同時にボスとの約束や雪斗が知っているということ。

 そして、約束の期間が残り四か月しかいないことも。


「なんで?私からしたらまだ危なくないよ?」

「それでも、俺が心配する。美夜だって誰かが無茶して傷ついたら嫌だろ。それと同じ。」

「………そっか。」


 少しだけ、心が凪ぐ。

 もしかしたら、心配てくれる人がいて嬉しいという感情かもしれない。

 それは、私が皆と出会わなかったら知ることはなかったものだ。

 校庭のイチョウが穏やかに風に揺られながら地面に落ちていった。