最強女子にも帰る場所がある~Choice your back home~

 ちょうど、お昼時になったので霞先輩がのいるマッスル喫茶に行く。


「霞先輩、いらっしゃいますか?」


 霞先輩のクラスに行くと、男子だらけだった。

 しかも、女性客は一人もいない。

 どれに、霞先輩は何やら男性客の接客で忙しそうだ。

 帰ろうか…と踵を返そうとしたとき、


「あ、美夜。待って。」


 腕を掴まれた。


「霞先輩。」

「もう少しで昼でしょ。何かここで食べる?」


 霞先輩が屈んで目線を合わせてくれる。

 もしかして…警戒されていると思われている?


「はい。じゃあ、お邪魔します。」


 そう言った瞬間、猛々しい声が教室に広がる。


「念願の女の子一人来店!」

「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」


 何故かキャストだけでなく男性客まで声をあげる。

 そのノリについていけない、私と霞先輩。


「……引かないでやって。あいつら、いつもこんな感じだから。」

「……心中察します。」

「そうしてくれ。」


 二人で顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

 すると、霞先輩と同じく接客担当の人達にいつの間にか囲まれて、


「お、霞とその子いい感じじゃん。」

「じゃ、霞。接客は頼んだ。俺らは盛り上げ役だから。」

「というか、その子…。霞と噂になっていた子だろ!?」

「は!?まじかよ。道理でね…。」


 すると、教室の隅に移動して円になり始めた。


「いや、絶対さ…ゴニョゴニョ…。」

「霞のことだからさ…ゴニョゴニョ…。」

「なら、俺らがさ…ゴニョゴニョ…。」

「じゃあ、念のため用意しといたあれを…ゴニョゴニョ…。」


 なんか作戦会議?をしている。

 と、思ったらそれぞれ解散して、


「霞、メニュー表持ってくる。」

「お、おう?」


 霞先輩も状況が把握できていない。


「はいはーい、霞。練習(マニュアル)通りで頼むわ。」

「分かったよ…。」


 霞先輩は恥ずかし気に、手を差し出し


「お嬢さんが満足するまで筋肉堪能してください…。」


 霞先輩が…真っ赤になって震えている…。

 彼のこういう顔を見るのは初めてだ。


「はい…。」


 差し出された手を重ねる。

 席に移動して座ると、ふとホワイトボードの看板が目につく。


「……紳士なマッスルを堪能したい方は草野霞へ…。」

「………だから、恥ずかしかったんだよ…。」


 顔を両手で覆う霞先輩。

 そんな霞先輩を揶揄うように、


「なに恥ずかしがってんだよ。マッスルたるもの堂々としろよ。ほい、これメニュー表。」

「ありがとうございます…。」

「いいんだって~。で、こんな見た目でピュアな霞だけど、とにかく優しいから!」

「は、はい?」

「そうそう、霞はとにかく優しいから!ただ、奥手でシャイなだけだから!」

「う、うん?」


 私は何を聞かされているんだろう…。


「ちょ、やめろよ。お前ら…。美夜が困ってる。」

「はいはい、じゃあ美夜ちゃん。注文が決まったら教えて~。」

「あとはお若いお二人でごゆっくり。」

「やめろ、そういうんじゃない。」

「はいは~い。」


 そう言って去って行った。


「……とりあえず、俺のおすすめは…。クリームレモンソーダとか、豆腐ドーナツとか…。そういうのが人気だ。」

「なるほど…。」


 しかし、メニュー表のどこをみてもそんなのはどこにも載っていない。


「……霞先輩、クリームレモンソーダとか豆腐ドーナツは載ってないですけど…。代わりに、恋人による筋肉チェックや間近で筋トレレッスンなどなど…。」

「は?……これ…カップルメニューじゃねぇか!」


 霞先輩が珍しく慌てている。

 メニューを持ってきた人が遠くでグッジョブサインをしている。


「あの…。カップルメニューだったらこういうことできるんですか?」

「ちょ、なんで食い気味…。」

「このマッスルツーショットがいいんですけど…。あ、筋肉別写真撮影とか…。」

「美夜ちゃんめっちゃ食い気味じゃん。霞、応えてやれよ。」

「いや…。というより、こんなもの用意していたなんて知らなかったんだけど…。」


 霞先輩以外はノリノリであるが…。


「やっぱり、いいです…。霞先輩の僧帽筋に圧力かけたくないです。」


 そう言った瞬間、どっと笑い声が起こる。


「だってよ霞。霞の僧帽筋が…ぶふっ。」

「じゃあ、俺らの筋肉の写真撮ればいいだろ。」

「え?」

「は?」


 他のキャストさんがシャツを脱ごうとしていると、


「待て。」

「お?どうした霞?」

「美夜は俺の筋肉だけを見ればいい。」

「へ?」


 目を瞬かせていると、雄叫びが部屋に響き渡る。


「ふ~~~~!霞ったらやるぅ!」

「惚れるわぁ。」

「ちょ、お前ら煽んな。」


 脱ぎ始める霞先輩。

 裸を見るのは初めてでワクワクする。

 カメラを構えて連写したい衝動をなんとか抑える。


「……これでいいか…?」

「……完璧です。」


 パシャパシャと連写する。

 本当に、中学生だとは思わない体型だ。

 腹筋は六つに割れているし、胸筋も分厚い…。

 しかも、上腕二頭筋などなど太くて…両手剣とか持ったらどうなるんだろう…。

 ボスなら総合格闘で訓練させるだろうなぁ…。

 そして、素手で殺せちゃうぐらいの人間に…。

 もしかしたら、私より強くなりそうな予感!


「なぁ、霞…。あの子って…珍しい子だな。」

「あぁ、全くだ。…でも、それがいいていうか…。」

「……こんなに、広背筋や大円筋、外腹斜筋のバランスがいい人…初めて見た。」

「い、いつの間に背中に!?」


 ある程度、写真を撮り終えた。

 しかし、一連の様子を見ていた他のキャスト達、


「……おい、次のフェーズに移るぞ。」

「「「おうよ。」」」


 それに気づかない私と霞先輩。


「そこのお二人さーん。あ、やば…こける…。」


 他のキャストさんがやって来るも、その人は足を躓かせた。

 そして、霞先輩の背中を押す。


「ちょ…。」


 バランスを崩した霞先輩がこちらに倒れ込んでくる。


「え?」


 お互いのまつ毛が触れ合いそうな距離になる…。

 しかし、ぶつかることはなく私は壁と霞先輩に挟まれている。

 いわゆる…


「壁ドン来たぁぁぁ!!」


 私が心の中で呟くより先に他のキャストが雄叫びを出す。


「わ、悪い…。」

「……い、いえ…。」


 なんでだろう…。

 なんだか、体が熱いような気がする。

 霞先輩も顔が赤い気がして、それに心臓の早くなるように感じた。

 この感覚の正体は何…?

 しかし、それを見て眉をしかめる人物がいた。


「おい、行くぞ」

「え?」

「蘭。」


 蘭によって連れ出された。