最強女子にも帰る場所がある~Choice your back home~

 その後、頼まれた小道具を途中で壊してしまい結局、日が沈んでも遅くまで作業することになった。

 教室の壁時計の秒針を刻む音しか聞こえないなか、黙々と作業する。


「………。」


 そんななか、何かの気配を感じて後ろを振り向く。

 しかし、そこにいたのはお化けの恰好をした雪斗だった。


「なんだ、雪斗か。」

「あはは、脅かそうとしたんだけどな。」

「なんとなく、気配がしたから。」

「そっか。」


 残念がりながらもどこか楽し気に笑う今の雪斗は王子様スマイルを浮かべていない。

 和やかだけど、どうしても聞きたいことがあった。


「……ねぇ、佐野さんはどうなったの?」

「………。」


 空気が凍った感じが伝わる。

 雪斗はどうやら佐野さんの名前を聞くだけで機嫌が悪くなるみたいだ。


「佐野さんは、しばらく停学だ。」

「そうなんだ。」

「だから、文化祭も来ない。」

「そっか。教えてくれてありがとう。」

「どういたしまして。」


 しばらく、二人とも喋らなくなる。

 少しだけ居心地が悪い。

 というのも、私は雪斗に隠し事をしているからだ。

 夏休みに正体を見抜かれるも私は濁した。

 少しだけ、この場が息苦しく感じて


「ねぇ、お菓子たくさん持ってきたから一緒に食べない?」

「マジで!?食べる!」


 お菓子にだけ反応速度が速い雪斗。

 こういうところになんだか緊張していた心が和らいでくる。

 私はなんだか、雪斗相手なら言ってもいいだろうと口を開いた。


「……私、ジェヘナなんだ。」


 思い切って打ち明けると、雪斗はお菓子を喉に詰まらせたのかむせる。


「ごほっ…。え、今それ言う?」

「だって、先延ばしにしたら雪斗との約束を果たせないような気がしたから…。」

「ま、まぁ…。なんとなく分かってはいたけど。……でも、これで本題が出しやすくなった。」

「どういうこと?」


 本題とはなんだろうか?


「実は、今月ぐらいからこっち側の情報で美夜に関することがあったんだ。」

「どんな情報?」


 雪斗はお菓子を食べる手を止めて、


「……何者かが美夜を狙っている、って。」

「そうなんだ。」

「いや、反応薄。もっと、警戒心ないのかよ。」

「警戒したところで、私は狙っている人を返り討ちにすればいいだけだから。……あ、でも殺しちゃダメなんだった。」

「どういうこと?美夜はジェヘナなのに殺さないの?」

「……うん。私は普通を学ぶために一年間だけここに来たの。その間は誰も殺しちゃダメなの。」

「……それは、ボスの命令?」

「………うん。」


 お菓子を一個頬張る雪斗。


「……でも、何はともあれ美夜には感謝しかないよ。」

「なんで?」

「俺らを助けたでしょ。」


 雪斗が言っているのはあの時か。


「でも、あれはボスに命令されただけで…。私の意志で助けたわけじゃないよ。」

「それでも、だよ。きっかけはボスに命令されたからかもしれない。」


 な、なぜ雪斗は食い気味なんだろ。


「う、うん?」

「あの時から…。いや、もっと前からジェヘナの存在に憧れて、気づいたら美夜と重ねていて…。」


 わ、私に憧れ!?

 は、初めて言われた…。


「ねぇ、蘭にも霞先輩にも告白されたんでしょ。」

「う、うん…。だけど、私は恋愛とかよく分からない。というより、どうして私が霞先輩に告白されているの知っているの!?」


 雪斗君は王子様スマイルを浮かべながら、


「内緒。……分からないなら俺が全部教えるから、俺と恋しない?」


 と、言った。

 一見、王子様スマイルに見えた表情は熱が籠っているように見えて、優し気だけど逃がしてくれないような有無がある。


「………だけど、私はちゃんと恋を知りたい。」

「………美夜らしい。」


 呆れたような笑みを浮かべるとそう言ってくれた。

 そして、


「俺さ、今まで対等に扱ってくれる人が周りにいなかったんだ。」

「………うん。」


 確かに、この学校で雪斗を対等に扱うような人はいないだろう。

 彼は完璧人間なのだから。


「美夜が初めて俺を対等に扱ってくれた。だから、好きになったんだ。」


 そう言って王子様スマイル抜きに笑った彼は本心で笑ってくれたような気がした。

 そんな彼に恋のこの文字も分からない私がかける言葉など思いつかなかった。