最強女子にも帰る場所がある~Choice your back home~

 戻る帰路はずっと二人とも黙ったまま。

 ただ時々風が吹いて木の葉が擦れる音が聞こえるだけ。

 しかし、その静かさを消したのは雪斗君だった。


「月下さん。」

「何?雪斗君。」


 もしかして、雪斗君に気づかれたのだろうか?

 雪斗君は裏社会の人間でヤクザのボス。

 しかも、一度私の戦っている所を見たり、共闘している。

 それに、勘づいて熊のもとに向かう私をつけて、あの場にいたのか…。


「自分も自分が立てたこの仮説もおかしいのは分かっているんだ。でも、思わずにはいられない。」

「……何を?」

「月下さんはもしかしたら、“ジェヘナ”なんじゃないかって…。」


 ほんの一瞬の隙すら見せないように息遣いを正常になるように意識する。
 

「何言っているの?私はただの女の子だよ?」


 普通の女の子…。

 これは私の願いかもしれない。


「普通の女の子は自分のことを普通の女の子って言わないよ。」

「っ…。」


 今度は完全に動揺してしまう。

 完璧人間の王子様…彼は完璧だから普通がなんなのかたくさん知っている。

 だけど、私にとっては棘だった。

 戦闘では私は勝てる、だけど言葉では私は勝てない。

 なぜなら私は偽りだから。

 雪斗君相手に隠し通すのは無理だろうと思いつつも、まだ知り合って一季節分しか経っていないのだから、本当に話して大丈夫なのかを見極めたい。


「………いつかちゃんと言う。だから、それまで何も聞かないでくれたら助かる。」


 雪斗君は模範となる完璧人間だからこそ、近づけば危ない棘がある。

 ここで、彼が何と言うか…。


「分かった。月下さんが話してくれるまで待つ。ただし…。」


 彼は一歩距離を詰め、


「俺のこと雪斗君じゃなくて雪斗って呼んで。俺も月下さんじゃなくて美夜って呼ぶから。」

「え、それだけ?」

「だって、呼び捨てのほうがなんだか縮まるでしょ?形だけでも、信頼と信用されたいし。」


 と言って先に戻って行った。

 一人になった空間で考える。

 もしかしたら、雪斗は私が少し距離を取っていたのを分かっていたのかもしれない。

 上辺だけニコニコして会話して、だけど心の中では警戒している。

 そんな私に彼はどう思って会話したり微笑んだりしたのだろうか?

 それは、雪斗君を傷つけていたと思う。

 彼は生まれたときから何もかも信じられない世界にいる。

 普通として生きて、人を傷つけたり殺したりしないとボスと約束した。

 だけど、私が雪斗にした行動は雪斗の心を殺していた。

 木々が頷くように風で騒めいた。