静かなる、恋の包囲網

「辻本は有能で仕事のできる人間だが、何を考えているのかわからないところがある」
「そんな、会社のために一生懸命働いているのに、ひどいです」

普段同じ部屋で仕事をして辻本が懸命に仕事をこなしているのを目の当たりにしているからこそ、塔子は我慢できずに言葉にしてしまった。

「分かっているよ。辻本は秘書課長として本当によく働いてくれている。そのことには何の文句もない。ただ、例えば異性として見るには、注意した方がいいと言いたかっただけだ」
「そんな・・・課長は課長ですし、仕事外での付き合いはほとんどありません。それに、友人とも言えない人を異性としてみるなんて…ありませんよ」

塔子は笑い飛ばしたのだが、雄平の表情はなぜか硬いまま。

「俺の取り越し苦労ならそれでいいんだ。大体の男女は友人関係なんて飛ばして親しくなっていくものだから、心配になっただけだ。とにかく、あらぬ誤解を受けないようにしてくれ」

この時塔子の脳裏に浮かんだのは先日カフェでのやり取り。
あれはプライベートでの交流ってことなのだろうかと考えていた。
確かに、ああいう場面を他人に見られれば、塔子と辻本が親しくしているように見られるのかもしれない。

「気を付けます」

雄平がなぜわざわざ辻本のことを話題にしたのか、その本心が塔子にはわかっていなかった。
ただ単に、周囲から誤解を受けることがないように注意しろと言われたものと思っていた。