静かなる、恋の包囲網

二人が入ったのは駅前の小さなカフェ。
広くはないがコーヒーのいい香りがして、ジャズの流れる雰囲気の良い店だった。

「田所さんが何か思い詰めているようだったので、気にかかっていました。何かありましたか?」

どう切り出そうかと悩んでいた塔子だったが、辻本の方が先に口火を切ってくれた。
おかげで塔子は話を切り出しやすくなった。

「実は今日、総務課の森口杏さんを見かけたんです。森口さんがなぜ重役フロアに…」

さすがに、雄平との関係を直接聞き出すことはできず、それとなく聞いてみる。

「森口さんとは総務課の同僚でしたね」
「ええ」

辻本のことだから、個人的な情報は教えないと言われるのかもしれないと思った。
たとえ杏がタカミヤホールディングスゆかりの人間だったとしても、業務には関係のないことだと突っぱねられればそれで終わり。それがわかっていても、塔子は聞きたかった。

「私も人事課の人間ではないので詳しいことはわかりませんが、彼女が縁故枠での入社であることは間違いないはずです」
「そうですか」

意外にも辻本は教えてくれた。

「彼女のことが気になりますか?副社長とも親しいようですしね」

―――え?

驚いて顔を上げると、普段笑顔を見せることのない辻本が微笑みながら塔子を見ている。
その顔を見た瞬間、これは辻本に聞くべきではなかったと塔子は後悔した。