ミーティングルームの椅子に腰を下ろし、しばらく黙っていた秘書課長だったが、小さく一つ息をついてからやっと口を開いた。
「取引企業のデータが外部に漏れたとの情報があります」
―――え?情報の管理にはうるさいこの時代にデータの流出なんて……
塔子は唖然として口を開けたまま固まった。
「今、来期に向けて海外ブランドと提携した大型プロジェクトが動き出しているのは知っていますか?」
「はい」
アメリカ勤務時代、雄平が力を入れていたプロジェクトの1つで、海外で人気のあるコスメブランドを日本にいち早く輸入しようと水面下で調整が行われている。人気急上昇のブランドだけに前評判も高く、無事契約が結ばれれば莫大な利益を生むだろうと言われている。
「そのプロジェクトに関わる国内のメーカーの情報が1部漏れたらしいんです。そして、そこに、なぜか、あなたの名前が上がってきた」
「そんな…」
秘書課長が話した海外ブランドとの提携プロジェクトについては、社内では多くの人間が知っている。しかし、取引条件やそれに関わっている企業等の詳細な情報を知る人間は多くない。
実際その情報が外に漏れてしまえば、今後の契約にも影響が出るし、そのことでプロジェクト自体が頓挫する可能性もあるのだ。
「あなたは、白梅堂化粧品の角田業務本部長を知っていますか?」
「それは・・・」
思わず塔子の言葉が止まる。
白梅堂は明治時代から続く国内化粧品メーカーの最大手。そこの事業部を統括する角田本部長は塔子の勤めるクラブの常連だった。
出会いは接待の席だったが、最近ではプライベートでも来店して、その度に塔子を指名してくれていた。
「面識があるんですね?」
塔子はイエスもノーも答えることなく、下を向いた。
「まさか、情報を漏らした事はありませんね?」
「はい」
そんなふうに聞かれること自体腹立たしいと思いながら、塔子は力強く答えた。
「いずれにしても、こうしてあなたの名前が出てきている以上、しばらく副社長との距離をとってもらったほうがいいでしょう」
「距離ですか?」
課長の意図するところがわからず、塔子は首をかしげた。
「いらない誤解を受けない方がいいと思いますので、しばらくは秘書室で業務を行ってください。副社長のサポートは私の方でおこないます」
秘書課長の言う事もわかるし、新しいプロジェクトに影響することも避けたい。
しかし、いわれのない疑いをかけられ、仕事を外された形になった塔子は、やり場のない思いを抱えた。
「取引企業のデータが外部に漏れたとの情報があります」
―――え?情報の管理にはうるさいこの時代にデータの流出なんて……
塔子は唖然として口を開けたまま固まった。
「今、来期に向けて海外ブランドと提携した大型プロジェクトが動き出しているのは知っていますか?」
「はい」
アメリカ勤務時代、雄平が力を入れていたプロジェクトの1つで、海外で人気のあるコスメブランドを日本にいち早く輸入しようと水面下で調整が行われている。人気急上昇のブランドだけに前評判も高く、無事契約が結ばれれば莫大な利益を生むだろうと言われている。
「そのプロジェクトに関わる国内のメーカーの情報が1部漏れたらしいんです。そして、そこに、なぜか、あなたの名前が上がってきた」
「そんな…」
秘書課長が話した海外ブランドとの提携プロジェクトについては、社内では多くの人間が知っている。しかし、取引条件やそれに関わっている企業等の詳細な情報を知る人間は多くない。
実際その情報が外に漏れてしまえば、今後の契約にも影響が出るし、そのことでプロジェクト自体が頓挫する可能性もあるのだ。
「あなたは、白梅堂化粧品の角田業務本部長を知っていますか?」
「それは・・・」
思わず塔子の言葉が止まる。
白梅堂は明治時代から続く国内化粧品メーカーの最大手。そこの事業部を統括する角田本部長は塔子の勤めるクラブの常連だった。
出会いは接待の席だったが、最近ではプライベートでも来店して、その度に塔子を指名してくれていた。
「面識があるんですね?」
塔子はイエスもノーも答えることなく、下を向いた。
「まさか、情報を漏らした事はありませんね?」
「はい」
そんなふうに聞かれること自体腹立たしいと思いながら、塔子は力強く答えた。
「いずれにしても、こうしてあなたの名前が出てきている以上、しばらく副社長との距離をとってもらったほうがいいでしょう」
「距離ですか?」
課長の意図するところがわからず、塔子は首をかしげた。
「いらない誤解を受けない方がいいと思いますので、しばらくは秘書室で業務を行ってください。副社長のサポートは私の方でおこないます」
秘書課長の言う事もわかるし、新しいプロジェクトに影響することも避けたい。
しかし、いわれのない疑いをかけられ、仕事を外された形になった塔子は、やり場のない思いを抱えた。



