静かなる、恋の包囲網

副社長室での挨拶が終わり総務課のオフィスに戻ると、いつもと変わらない業務が待っていた。
週明けということもあり仕事も立て込んでいて、みんなが慌ただしく動いている。
そんな中、係長から塔子に声がかかった。

「田所くん、頼んでおいた月例会議の資料はどうなった?」
「それでしたら印刷してあります。今お持ちします」

辞令発表で若干バタバタしたものの、締め切りのある仕事は優先して準備してある。
課長から頼まれていた会議資料も人数分コピーして…。

―――あれ、ない。

昨日のうちに出来上がった資料をデスクの上に置いていたのだが、見当たらない。
塔子はキョロキョロと周囲を見回した。

―――おかしいな。朝は間違いなくデスクの上にあったのに。

するとどこからともなく聞こえてくるクスクスと笑う声。
痛いほど背中に刺さる視線。
塔子はとても嫌な予感に襲われた。

「田所さん、これですか?」

いつも隣の席で業務を行う同僚が、ゴミ箱の中を指差しながら言う。
そこには今日の会議用に用意した書類が捨てられていた。

「気をつけてください。大切な会議の資料ですよ」
「副社長秘書に任命されて浮かれていたんじゃないですか?」

なぜか楽しそうに、女子社員たちは笑い合う。
塔子は悔しさで唇をかみしめた。