静かなる、恋の包囲網

「社長の判断を仰ぐ前に、私からもよろしいでしょうか?」

穏やかでそれでいて凛とした声が会議室内に響くと、ざわついていた室内が一瞬にして静かになった。

「田所さん、あなたは本当にこれらのファイルや資料を作った記憶は無いのですね?」
「はい、私は全く知りません」

雄平に尋ねられ、塔子ははっきりと答えた。

「私の方でも今回の情報流出について調べてみました。ファイルの作成日時と更新履歴、それら全てを洗い出した資料がこちらです」

そう言って会議室前面のディスプレイに映し出された更新履歴。

「そして、これが秘書である田所くんの勤務時間と社内システムへのログイン・ログアウトの記録です。確かに田所くんの名前でログインされていますが、彼女の勤務スケジュールと照らし合わせると不可解な点が見えてきます」

次に映し出されたのは塔子の勤務スケジュール。
ミーティングや会議の時間と、それに出席したメンバーの名前まで事細かに記載されており、塔子がその時間どこで何をしていたかがよくわかるようになっていた。
確かにこれを見れば、情報漏洩のファイルを作成した時間に塔子が会議やミーティングに出席していたことがわかる。

「こんなものは後からいくらでもごまかすことができる。証拠になんてならない」

雄平の言葉を遮るように城田専務が声を上げた。

「では、田所君が情報漏洩を企てたというこの証拠も、後から誰かが仕組んだものとは考えられませんか?」
「じゃあ、この写真はどう説明するんだね。明らかに田所くんと角田本部長が写っているじゃないか」

―――それは……

そのことを追及されると何も言えない。
実際塔子は、会社に黙ってアルバイトをしていたし、そのことが公になれば職を失うかもしれない。

「これは私と角田本部長が会食した際に、田所君が同席していたときの写真です。写ってはいませんが、隣には私もおります」

―――え?

雄平の口から出た言葉に驚き、塔子は顔を上げた。