静かなる、恋の包囲網

「君がどんな目的で副社長に近づいたのか、はたまた君自身がどんな人間なのか、僕は興味ない。今更君の罪を暴こうとも思わないが」
「私は何もしていません」

塔子にしては珍しく声が大きくなり、城田専務の言葉を遮った。
しかし、城田専務は意地悪そうに塔子をにらみつけると、数歩あゆみ出て、塔子の耳元に顔を寄せささやくように告げた。

「もう、どうでもいいんだよそんなこと」

その言葉を聞いた瞬間、塔子は全身から血の毛が引いていく気がした。

「これは明らかに情報漏洩の証拠だ。こうなった以上、田所君には会社から去ってもらい、新規プロジェクトについても白紙に戻すのが妥当と考えます。いかがでしょうか、社長?」

最後の一言は社長である雄平の父に向けられたもの。
周囲の誰一人も声を発することができず、塔子も悔しさに拳を握り締めた。
証拠を示しながら詰め寄る城田専務を止めることは誰にもできないのかもしれない。
このまま無実の罪を着せられてしまうのかもしれないと、塔子は感じた。
その時、それまで社長の隣で黙って座っていた雄平が、静かに立ち上がった。