静かなる、恋の包囲網

防犯用でも護身用でもないおもちゃのようなカッターナイフ。
荷物や郵便物が来たときにすぐに開けられるようにと玄関の靴箱の上に置いていたものを、まさか人に向ける日が来るとは…。

「塔子、落ち着いてくれ」

慌てたようにうろたえる父。
塔子のほうも小刻みに震える体を必死に抑えていた。
2人とも動くこともできない状況の中、どのくらいの時間が過ぎただろう。

「わかったよ」

父は肩を落とし大きくうなだれると数歩後ずさりした後、背中を向けて駆け出した。
父の姿が見えなくなったことで塔子の緊張も解けていき、同時に全身の力が抜けて塔子はその場に座り込んだ。