静かなる、恋の包囲網

―――やっぱりおかしいわ。

何度確認しても、塔子名義で作られた内部情報のファイルには覚えがない。
もっと言うならば、データの更新は全て塔子がデスクを離れたタイミングで行われている。

――誰かの陰謀としか思えない。

塔子に恨みを持つ者の企みなのか、あるいは雄平が進めようとしているプロジェクトを潰したいのか、犯人の目的はわからないが、少しでも早いうちに手を打つべきだろう。 そのためには内部情報を漏洩した犯人が塔子ではないという証拠を示すしかない。
もちろんパソコンに残っている履歴と塔子のスケジュールを照らし合わせれば塔子自身が行ったことではないとわかるはずだが、ここまで周到に準備をしている犯人のことだから、次にどんな手に出てくるのかはわからない。

―――困ったね。

塔子は小さなため息をつく。

―――とりあえず、少しでも証拠になりそうなものはすべて揃えておこう。

会社に残っているログインデータ等の履歴ではなく、塔子が間違いなくその時その場にいなかった物的証拠となるものが何かないのかと必死に考えた結果、塔子は仕事帰りに以前住んでいたアパートへ向かうこととした。
アパートには普段使っていた手帳や業務の記録も残っているし、中には雄平や上司である辻本とやりとりをした業務記録もある。
もしかしたらそういったものが、証拠になるかもしれない。
塔子には、それが今できる最善策だと思えた。