静かなる、恋の包囲網

「あの時、俺は塔子に助けられた」
「え?」

蘇る当時の記憶。
確かに、東京を直撃した台風は大量の雨を降らせて交通を麻痺させ、甚大な被害を与えた。

―――そういえば、あの日も停電したんだわ。

「夕方になって突然停電して、慌てて外へ逃げようにも周囲は真っ暗で、俺は身動きができなくなってしまったんだ」

言われてみれば、図書館で動けなくなった学生を介抱した記憶があるが……
しかし、図書館には大勢の学生がいたし、停電した暗闇の中で、介抱した相手が若い男性だということしかわからなかった。

「塔子、あの時はありがとう」
「そんな……」

雄平があの時の人だったなんてと、塔子は信じられない思いで雄平を見る。
そこには、仕事で見せる有能な副社長とは別人のような、穏やかで優しい笑顔があった。