静かなる、恋の包囲網

ただ真っすぐに、全力で走りながら塔子は大通りを目指した。
後ろから聞こえてくる足音を振り返ることはしなかった。
どのくらいの距離を走ったのだろうか。
実際には数十メートルだったのかもしれないが、塔子にはとても長い時間に感じられた。

―――もうすぐ大通りだわ。

行き交う人波が見えたところで、塔子は少しだけホッとした。
ここまでくれば連れ去られることはない。
そう思って後ろを振り返ると、すでに人影はなくなっていた。
良かったという安堵と、これまでの恐怖がまじりあって、塔子はその場に崩れ落ちる。

―――怖かった。

全身脱力状態の塔子は、座り込んだまま息を整えた。
その時、遠くの方から声がした。

「塔子」

―――え?