静かなる、恋の包囲網

その後、塔子は周囲に気づかれないようにファイルの詳細を調べていった。
作成記録、更新履歴、印刷記録まですべてを確認すると、すべて塔子の名前でログインされているものの、不可解な点も見えてきた。

―――おかしいわ。私が会議で離席しているタイミングで更新された記録がある。

会議中は当然、自分の仕事を行うことはできない。
ましてや会議に参加している時間に秘書室のプリンターからデータを印刷することなどできるはずがない。
これは明らかに、塔子を装った誰かが塔子の名前でログインした証拠になる。
今のうちに証拠を取っておかなければいけないと、塔子は今朝杏から預かったUSBを取り出し、データを記録した。

―――誰かが私を陥れようとしてる……

薄々感じてはいたものの、はっきりとした証拠を目にした塔子の気持ちは落ち着かず、疑心暗鬼になってすべての人が怪しく見えてしまう。
その日一日、塔子は悶々と時間を過ごした。
そして夕方、定時になるのを待って退社した。

『塔子さん、良かったら今夜も来てください。待っていますから』

タカミヤホールディングスの建物を出たところで届いた杏からのメッセージ。
一瞬どうしようかと考えたものの、塔子は雄平のマンションへ帰ることにした。

『杏ちゃんありがとう。でも、今日は自分の家に帰るわ』

本当は自分の家ではないけれどね、と心の中で思いながら塔子は返信した。
正直、今自分の帰る場所は雄平と住むあのマンションしかないのだ。