静かなる、恋の包囲網

「おはようございます」
「田所さん、お、おはよう」

塔子が出社すると、周囲は不思議そうな顔で塔子を迎えた。
きっと今日は休んで出社してこないと思われていたのだろう。
それでも塔子は、いつも通りに自分のデスクに向かう。
課長である辻本は、何の声もかけてこなかった。

「田所さん、これのコピーをお願いできるかしら」
「はい」

塔子が今、社内システムへの介入を制限されていてできる仕事が限られていることを知っている。
そのことを知っている同僚たちは、時折塔子に雑務を依頼してくる。
それは決して嫌味ではなく、どちらかと言うと仕事を探してくれている印象だった。
だからこそ塔子は嫌な顔もせず、頼まれた雑務に専念した。
そしてその傍ら、自分の個人ファイルや閲覧可能な共有ファイルの履歴をとどりながら、何か怪しいところはないかと探っていた。