静かなる、恋の包囲網

「塔子さん、大丈夫ですか」

思い出したくなかった過去の記憶がよみがえり、瞳を潤ませた塔子を、杏が心配そうに見る。

「うん、平気よ」

照れくさそうに笑顔を作り、塔子は目頭を押さえた。

「そういえば、さっきからずっと携帯が鳴ってますよ」

杏がソファーに置いていた塔子のバッグを指さす。

「ああ、そうね」

塔子も気が付かなかったわけではない。
おそらく雄平からだと想像がつくからこそ、放置していた。
しかし、そろそろ限界だろう。
塔子は躊躇いながら携帯を取り出した。

―――やっぱり。

小さなため息をひとつ。

数えきれないくらいの着信は、すべて雄平からだった。
メッセージも絶え間なく送られている。

―――困ったな。

アメリカ出張中の雄平に心配をかけたくないと思いながらも、嘘をつく自信がない。
塔子は携帯を握りしめたまま、動きを止めた。