静かなる、恋の包囲網

食事をしてゆっくりとお茶もいただき、シャワーを借りると、杏が塔子のために寝室を用意してくれた。

「母の勧めでこの部屋を借りた時、ゲストルームなんて絶対に使うことはないと思っていたのに、塔子さんに使ってもらえて本当によかったです」

どこか冗談混じりにクローゼットを覗き込む杏の楽しそうな様子。
その言葉通り、普段使われている様子のないゲストルームに塔子の寝具が用意されていく。

「突然お邪魔したのに、本当にありがとう」

喜んでくれる杏に対して、塔子はただ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
少し前まで塔子は杏のことを疑っていたのだ。
何か自分を騙しているのではないかと心の片隅で思っていた。今だって、すべての疑念が消え去ったわけではないが、杏が塔子を助けてくれる唯一の存在なのは間違いない。

「塔子さん、周囲の声なんて聞いたらだめですよ。人はみな自分に関係ないとなると興味本位で好きなことを言うんですから」

少しだけ表情を硬くした杏の言葉に、彼女自身も傷ついてきた過去があるのだと感じた。
だからこそ、こんなにも親切にしてくれるのだろう。

「ありがとう」

塔子はゆっくりと杏に近づき、彼女を抱きしめた。

―――杏ちゃん、ごめんね。

こんなに純粋に自分を慕ってくれる杏のことを疑っていたことに、後悔の思いが募った。
普段涙なんて流すことのない塔子だが、込み上げる思いを抑えることができず、目頭が熱くなる。
油断すると溢れだしてしまいそうな涙をぐっとこらえながら、塔子はなぜか自分が子供だった頃を思い出していた。