静かなる、恋の包囲網

その日の夜、塔子は杏のマンションにいた。
杏に対する疑念がすべて消えたわけではなかったが、今の塔子には杏の差し伸べる手を払いのけるだけの気力が残っていなかった。

東京の中心部にあるタカミヤホールディングスの本社から駅三つだけ離れた場所にあるマンションの広さは2LDK。
雄平の住むマンションほど豪華ではないものの利便性も良く、新しくておしゃれな部屋だった。
家具も自然素材の木目調で統一され、ナチュラルで暖かな印象。
置かれているインテリアの一つ一つにも手作りの温かみがあり、すべて同じテイストで統一されている。

―――これは確か、北欧発の人気ブランドのものだ。

女性に人気がありよく雑誌でも取り上げられているが、お値段も張るため、塔子には手が出せない高級ブランド。
よく見ると部屋そのものが、インテリア雑誌の1ページのようだ。

「母がヨーロッパ好きで、子供の頃からよく連れ出されたんです。ヨーロッパのおしゃれな街並みや都会の風景は好きになれないけれど、北欧の自然に囲まれた暮らしに憧れて、自分の住まいは好きなもので集めてみました」

塔子の視線を感じ取ったのか、杏が説明してくれた。

「そう、とっても素敵ね」

塔子にはとてもじゃないけれどできない暮らしだなと痛感した。
そして、ここは一介のOLが自分の力で住める場所には思えなかった。

―――やっぱり杏ちゃんはいい所のお嬢さんなのね。

20階建てのマンションの高層階の窓から景色を見ながら、塔子は小さく肩を落とした。

控えめで礼儀正しく、いつも自分のことを慕ってくれる杏のことを塔子はかわいい妹のように感じていた。その思いは変わらないが、やはり住む世界が違う人らしい。