ある高校に、「語り部クラブ」というサークルがあった。
正式名称は「都市伝説・民俗学研究会」だが、もう長い間、休部状態だった。
その部屋を使いたいという申し込みがないから、部室も看板もずっとそのままになっていた。
世の中には怖いものが好きな人、また他人がしたがらないことをする人間がいる。二年の足立勇気《あだちゆうき》がそのタイプで、「語り部クラブ」を復活させようと活動し始めた。足立は人気のある学生だったから、メンバーが四人が集まった、と言いたいところだが、圧をかけて誘った後輩もいる。
活動内容は単純だ。月に一度、金曜の夜、部室に集まって、順番に「怖い話」を語るというもの。ただ「語り部クラブ」には、ルールがある。
「他人の話を途中で笑うな」
ルールを破った者はどうなるか。部の古いノートにはこう書かれている。
「最初に笑った者は、次の会には来なくなった」
最初の会に、全員が集まった。ちろん足立がMCで、「おまえ、やれ」と最初の語り手に指名されたのは、眼鏡の奥の目が細いので、足立が「すだれスリット」とあだ名をつけた後輩の岸田海斗《きしだかいと》。
岸田はおどおどと、つっかえながら話し始めた。
「えーと、えーと、これは、うちの地元のトンネルの話で……」
足立が「スリット、おまえ、緊張しすぎだろ」とクスッと笑った。
その瞬間、照明が一瞬チカッと明滅した。
空調の音が止まり、時計の針が動かなくなった。耳を澄ますと、自分たちの呼吸音だけが妙に大きく聞こえる。
「なんだよ、停電かよ」
誰かがそうつぶやいた直後、蛍光灯が再びチカチカと点滅しながら灯った。
そして、気づいた。真ん中の椅子が、空いている。
「え? 今さっきまで、足立、ここにいたよね?」
「電球、取りに行ったのか」
「ドアの開く音を聞いたか」
岸田が口を震わせながらつぶやいた。
「あのう、もしかして、先輩、笑いました?」
沈黙。誰も答えない。
窓ガラスには、自分たちの姿が映っている。さっきは五人、でも、今は四人しかいない。
高校側の話では、足立は家庭の事情により退学したそうだ。
それでも、「語り部クラブ」は続いている。
岸田が噛みながら話をすると、翌週、ひとりが退学するそうだ。
そして今、
この話を読んでいるあなた、何か言いませんでしたか。
クスッと笑わなかったですか?
了
正式名称は「都市伝説・民俗学研究会」だが、もう長い間、休部状態だった。
その部屋を使いたいという申し込みがないから、部室も看板もずっとそのままになっていた。
世の中には怖いものが好きな人、また他人がしたがらないことをする人間がいる。二年の足立勇気《あだちゆうき》がそのタイプで、「語り部クラブ」を復活させようと活動し始めた。足立は人気のある学生だったから、メンバーが四人が集まった、と言いたいところだが、圧をかけて誘った後輩もいる。
活動内容は単純だ。月に一度、金曜の夜、部室に集まって、順番に「怖い話」を語るというもの。ただ「語り部クラブ」には、ルールがある。
「他人の話を途中で笑うな」
ルールを破った者はどうなるか。部の古いノートにはこう書かれている。
「最初に笑った者は、次の会には来なくなった」
最初の会に、全員が集まった。ちろん足立がMCで、「おまえ、やれ」と最初の語り手に指名されたのは、眼鏡の奥の目が細いので、足立が「すだれスリット」とあだ名をつけた後輩の岸田海斗《きしだかいと》。
岸田はおどおどと、つっかえながら話し始めた。
「えーと、えーと、これは、うちの地元のトンネルの話で……」
足立が「スリット、おまえ、緊張しすぎだろ」とクスッと笑った。
その瞬間、照明が一瞬チカッと明滅した。
空調の音が止まり、時計の針が動かなくなった。耳を澄ますと、自分たちの呼吸音だけが妙に大きく聞こえる。
「なんだよ、停電かよ」
誰かがそうつぶやいた直後、蛍光灯が再びチカチカと点滅しながら灯った。
そして、気づいた。真ん中の椅子が、空いている。
「え? 今さっきまで、足立、ここにいたよね?」
「電球、取りに行ったのか」
「ドアの開く音を聞いたか」
岸田が口を震わせながらつぶやいた。
「あのう、もしかして、先輩、笑いました?」
沈黙。誰も答えない。
窓ガラスには、自分たちの姿が映っている。さっきは五人、でも、今は四人しかいない。
高校側の話では、足立は家庭の事情により退学したそうだ。
それでも、「語り部クラブ」は続いている。
岸田が噛みながら話をすると、翌週、ひとりが退学するそうだ。
そして今、
この話を読んでいるあなた、何か言いませんでしたか。
クスッと笑わなかったですか?
了

