「ただいま。お酒、買ってきた」
修は、袋二つに詰められたビールやワインをテーブルの上に置いた。
ジムに行ってくると出かけ、帰りに買ってきてくれたのだ。
「ありがとう。餃子、これだけ作ったんだけど、さすがに足りるよね?」
バットにずらっと並んだ餃子を見て、修は目を丸くする。
「え、これ玲奈さんが全部作ったの?」
「やっぱり作りすぎたかな。余れば冷凍すればいいかと思って」
今日は修の部屋で、マナティと瑠加、そして同じくこのマンションに住んでいるタクミと餃子パーティをすることになったのだ。
「たくさん作るの久しぶりで、包んでるうちに夢中になっちゃって」
「すげー、職人じゃん」
修は、形が揃いきっちり並べられた餃子を見て、いかにも玲奈の手仕事らしいと思った。
グラスを用意していると、インターホンが鳴り、三人が部屋に入って来た。
「初めまして。梅田玲奈と申します」
玲奈はタクミにいつもの礼儀正しい挨拶をする。
「初めまして、お招きありがとうございます」
タクミの人懐っこい笑顔に、玲奈は久しぶりにアイドルに囲まれていることを意識してしまった。
特に修とタクミの同い年コンビはGrand-Blueを超えて、ショータイム社所属アイドルの中でも二大イケメンと言われており、タクミは「陽キャイケメン」、修は「クールイケメン」と位置付けられている。
よく考えたら、今をときめくトップアイドルであるGrand-Blueの三人が、一般庶民の玲奈が作った餃子を気に入ってくれるのか、不安になってきた。
「玲奈さん、すごい!これ一人で作ったの?」
瑠加もきっちり並べられた餃子を見て目を丸くする。
玲奈は瑠加が持ってきてくれた手羽先を「美味しそう」と言って皿に並べた。
「私の手作りですって言いたいところだけど、デパ地下で買ってきたの。ここの手羽先美味しいんだよ」
そして、「また玲奈さんに料理教えてもらうね」と、マナティに近づき恋人同士の会話をしている。
修は黙々とお皿やホットプレートなどを並べてくれている。
マナティと瑠加が餃子パーティを提案した際、この部屋を使うことに少しも抵抗はなかった。
表情は崩れていないが、内心は楽しいのかもしれない。
タクミも「手伝うよ」と言って修と一緒に動いてくれた。
二人で黙々と、でもテキパキと準備は進んでいった。
「うまー」
焼きたての餃子を頬張り、タクミは玲奈に笑顔を向けた。
「野菜たっぷり入れたからヘルシーだし、たくさん食べてね」
食べてくれた皆の反応が良くて、玲奈はホッとする。
「いい人がプロ彼女になってくれて良かったな、修」
タクミに続き、マナティも
「ほんと、そう。家ではダメダメの修のことちゃんと受け入れてくれて、貴重な人だよ」
と、玲奈を持ち上げてくれる。
修はビールを飲みながら照れくさそうに俯く。
「そういう真那斗は、瑠加ちゃんにいっつも甘えてんだろ」
タクミは酔いが回ってきたのか、少し饒舌だ。
「マナティはグループ内でもプライベートでも甘えんぼキャラだから、ぜんぜんオーケー」
瑠加もレモンサワーが進んでいる。
「そういやタクミくんは、新しいプロ彼女さん探してもらってるの?」
マナティが尋ねる。
タクミは一瞬、間を置いた。
「土居さんに、どんな人がいいって聞かれてるんだけど、前のこともあったし…なんか、答えられずにいるかな…」
タクミのプロ彼女は半年で契約解除になったと瑠加が言っていた。
男女の仲なので、フィーリングが合わない相手と契約を続けるのは難しい。
マナティが玲奈と修を見て口を開く。
「タクミくんもさ、玲奈さんくらいの年上の人がいいんじゃない?なんだかんだ言って修も玲奈さんに甘えてると思うもん。甘えられる人がいいかも」
急にこちらの話題になり、修と目があった。
修が慌てて逸らすので、玲奈も手羽先を口に運ぶ。
タクミは「でもさ」と言って、玲奈と修を交互に見る。
「玲奈さんと修って、今の感じだと、姉と弟に見えるよな」
修はグラスを持つ手を止めてタクミを見る。
「修は若者だけど、私はもう完全にアラサーだしね」
玲奈は笑いながらビールに手を伸ばした。
そして、今日みんなに聞きたかったことを思い出す。
「あの、聞きたいことがあるんだけど、アッキーとサワにもプロ彼女さんがいるの?」
「サワにはプロ彼女さんはいるけど、アッキーはリアル彼女がいるよ」
マナティがさらっと答える。
「リアル彼女がいるんだ」
なんだかリアル彼女のほうがリアリティに欠けるな、と玲奈は思った。
瑠加が続ける。
「サワさんのプロ彼女は沙織さんっていう人で、年は玲奈さんと同じくらいかな。フリーでライターの仕事もしてるから忙しいみたいで、あまり会えないんだ」
玲奈は沙織さんにも会ってみたいと思った。
「アッキーは一度そのリアル彼女さんと別れたみたいだけど、また復縁したんだって」
タクミはそう言ってビールの缶をテーブルに置く。
カランと軽い音がしたので、空になったようだ。
「なんでタクミくんはそんな情報知ってんの?修は知ってた?」
マナティは隣の修に聞いたが、修は黙って首を横に振るだけだった。
「アッキー本人から聞いた」
タクミはいたずらっ子のような笑顔でマナティを見る。
「リアル彼女か…」
瑠加は、箸もグラスも置いてマナティをぼんやり見ている。
「アッキーもサワも誰かさん達と違って大人だしな」
タクミは、修とマナティを交互に見ながら、こう続ける。
「二人とも、いくら契約してるプロ彼女さんだからって、甘えてばっかりはダメだと思うよ。ちゃんと彼女として扱わないと。もし上手くいかなくなったら、しっかりケジメをつけるべきだ」
「俺たちがちゃんと扱ってないって言いたいのか?」
それまでほぼ黙っていた修が口を開いた。
タクミに向けて険しい顔をしている。
玲奈が初めて見る修の顔だった。
一同に張り詰めたした空気が流れる。
犬用ベッドで大人しくしていたリンが、立ち上がってこちらをじっと見た。
「タクミくん、ちょっと飲むペース早いんじゃない?お水もらおうか」
この空気の中、一言を発してくれたのはマナティだった。
瑠加が「お水もらうね」と言って立ち上がり、ペットボトルの水をタクミに渡す。
タクミは黙って水を飲み、修はまた黙ってしまった。
なんとなく気まずい雰囲気のまま、餃子パーティはお開きとなった。
「トロトロで美味しい」
「ほんと、甘さもすっきりしてるね」
瑠加と玲奈は杏仁豆腐を一口食べ、満面の笑顔になった。
餃子パーティが気まずい雰囲気のままお開きになり、タクミが持ってきてくれた杏仁豆腐を出すのをすっかり忘れていたのだ。
今日は瑠加の大学の講義が午前中で終わるというので、帰ってから一緒に食べることになった。
「マナティの留守中に部屋に来て大丈夫だった?」
「メッセージ入れたし大丈夫だよ。マナティも、玲奈さんだったらいつでもオーケーだって」
ソファにはキャラクターのぬいぐるみが置いてあり、カーテンも明るい色が使われている。
部屋の作りは同じなのに、まったく違う場所に来たような感覚だ。
「さすが、タクミくんのチョイスって感じだよね」
瑠加は杏仁豆腐が入っていた箱とリーフレットを交互に見ている。
「修は甘いものあんまり食べないんだけど、これは反応良かったよ。ペロッと食べてた」
修が誰かに感情的になっている場面を初めて見た後だったので、少し気が引けながらも杏仁豆腐を差し出したら、意外にもすんなり食べてくれた。
「あの日はタクミくんの飲むペース、ちょっと早かったよね」
瑠加は紅茶をティーカップに注いだ。
「飲むとあんな感じなのかな?」
玲奈は紅茶を一口飲む。
「マナティが言うには、少し前からタクミくんと修の仲が微妙らしいよ」
「そうなんだ…」
修は最初に会った頃よりかはだいぶ話してくれるようになったが、メンバーについてはあまり話さない。もちろんタクミとの仲が微妙ということも聞いたことがなかった。
「タクミくんは陽キャで、王道のイケメンアイドルって感じだから、デビュー当時はセンターで売ってたんだけど、少し前から修の人気が高まってきたから、修がセンターに来ることが多くなってきたんだよね」
玲奈はGrand-Blueの人気が高まってきてから認識し出したので、センターのイメージは修だが、確かに当時のMVやテレビ出演では、タクミがセンターだった。
「センター交代みたいな感じになって、タクミくんとしてはあんまり面白くないのかな」
ライブのMCやバラエティ番組では、タクミ、マナティ、サワの三人が面白いことを言ったり、明るい雰囲気を作っている。
「二人は同い年だし、ライバルみたいな感覚があるのかもね」
瑠加もそう言ってティーカップを口に運んだ。
深紅のカップがモデル並みのスタイルに良く合っている。
「タクミくんがちょっと卑屈っぽくなってきたのって、プロ彼女さんとダメになってからみたい」
「そうなんだ…。ダメになった理由って?」
玲奈の質問に瑠加は首を横に振った。
「わかんない。私もそのプロ彼女さんとちらっとしか会ったことなかったし」
Grand-Blueの人気は上向きだが、メンバー個々で見るとそれぞれが等しく上向きとは限らない。タクミは今苦しい所にいるのかもしれない。
瑠加のスマホが短く震えた。
メッセージを見た瑠加は優しく微笑む。
「マナティから?」
玲奈も笑顔で尋ねる。
「今日は九時前に帰るって。軽く夕食作っとこうかな」
「ホントに、瑠加ちゃんとマナティって自然なカップルって感じだよね」
瑠加はいつもの元気な笑顔を返してくるかと思ったが、「うん…」と言葉を濁した。
「玲奈さんと修もだいぶ打ち解けてきたよね。餃子パーティの二人の準備作業、すごく自然だったよ」
「タクミくんには姉と弟って言われたけどね」
家での脱力系の修を見た時「これは世話が焼けるかも」と覚悟したが、一緒に暮らしてみるとそうでもなかった。
口数は少ないが、逆を言えば細かなことも言ってこないし、玲奈のプライベートも尊重してくれている。
瑠加が言うように、自然な流れで生活できているのかもしれない。
時計を見ると四時半を過ぎていた。
玲奈は、今日瑠加に聞きたかったことを思い出す。
「サワのプロ彼女さん、ライターの仕事してるって言ってたよね?仕事のかけもちって結構大変なのかな?」
「プロ彼女の仕事量って各自バラバラだからね。私の場合、家事にはそこまで気合入れてないから、大学とのかけもちでちょうどいい感じかな」
「そうだよねぇ」
玲奈は小さくため息をつく。
「要は、暇なんだ?」
「そうなの、暇なの」
玲奈はソファに座り直して少し前かがみになる。
「家事の合間にオンライン英会話のレッスン受けたり、資格の勉強もしてるんだけど、修の帰りが遅いと一日過ぎるのが長くて…」
「玲奈さん、前職でバリバリ働いてたから、余計に落差を感じるよね」
「仕事かけもちしたいって、土居さんに相談してみようかな」
瑠加は頷く。
「いいんじゃない。相談してみたら?」
そして、目を細めてニヤリとする。
「かけもちはいいけど、これから修と親密になってきたら、ちゃんとラブラブの時間も取ってあげてよ」
「ラブラブの時間って…」
玲奈は慌てる。
「やっぱり、玲奈さんってカワイイ」
瑠加はいつもの大きめの声で笑った。
修は、袋二つに詰められたビールやワインをテーブルの上に置いた。
ジムに行ってくると出かけ、帰りに買ってきてくれたのだ。
「ありがとう。餃子、これだけ作ったんだけど、さすがに足りるよね?」
バットにずらっと並んだ餃子を見て、修は目を丸くする。
「え、これ玲奈さんが全部作ったの?」
「やっぱり作りすぎたかな。余れば冷凍すればいいかと思って」
今日は修の部屋で、マナティと瑠加、そして同じくこのマンションに住んでいるタクミと餃子パーティをすることになったのだ。
「たくさん作るの久しぶりで、包んでるうちに夢中になっちゃって」
「すげー、職人じゃん」
修は、形が揃いきっちり並べられた餃子を見て、いかにも玲奈の手仕事らしいと思った。
グラスを用意していると、インターホンが鳴り、三人が部屋に入って来た。
「初めまして。梅田玲奈と申します」
玲奈はタクミにいつもの礼儀正しい挨拶をする。
「初めまして、お招きありがとうございます」
タクミの人懐っこい笑顔に、玲奈は久しぶりにアイドルに囲まれていることを意識してしまった。
特に修とタクミの同い年コンビはGrand-Blueを超えて、ショータイム社所属アイドルの中でも二大イケメンと言われており、タクミは「陽キャイケメン」、修は「クールイケメン」と位置付けられている。
よく考えたら、今をときめくトップアイドルであるGrand-Blueの三人が、一般庶民の玲奈が作った餃子を気に入ってくれるのか、不安になってきた。
「玲奈さん、すごい!これ一人で作ったの?」
瑠加もきっちり並べられた餃子を見て目を丸くする。
玲奈は瑠加が持ってきてくれた手羽先を「美味しそう」と言って皿に並べた。
「私の手作りですって言いたいところだけど、デパ地下で買ってきたの。ここの手羽先美味しいんだよ」
そして、「また玲奈さんに料理教えてもらうね」と、マナティに近づき恋人同士の会話をしている。
修は黙々とお皿やホットプレートなどを並べてくれている。
マナティと瑠加が餃子パーティを提案した際、この部屋を使うことに少しも抵抗はなかった。
表情は崩れていないが、内心は楽しいのかもしれない。
タクミも「手伝うよ」と言って修と一緒に動いてくれた。
二人で黙々と、でもテキパキと準備は進んでいった。
「うまー」
焼きたての餃子を頬張り、タクミは玲奈に笑顔を向けた。
「野菜たっぷり入れたからヘルシーだし、たくさん食べてね」
食べてくれた皆の反応が良くて、玲奈はホッとする。
「いい人がプロ彼女になってくれて良かったな、修」
タクミに続き、マナティも
「ほんと、そう。家ではダメダメの修のことちゃんと受け入れてくれて、貴重な人だよ」
と、玲奈を持ち上げてくれる。
修はビールを飲みながら照れくさそうに俯く。
「そういう真那斗は、瑠加ちゃんにいっつも甘えてんだろ」
タクミは酔いが回ってきたのか、少し饒舌だ。
「マナティはグループ内でもプライベートでも甘えんぼキャラだから、ぜんぜんオーケー」
瑠加もレモンサワーが進んでいる。
「そういやタクミくんは、新しいプロ彼女さん探してもらってるの?」
マナティが尋ねる。
タクミは一瞬、間を置いた。
「土居さんに、どんな人がいいって聞かれてるんだけど、前のこともあったし…なんか、答えられずにいるかな…」
タクミのプロ彼女は半年で契約解除になったと瑠加が言っていた。
男女の仲なので、フィーリングが合わない相手と契約を続けるのは難しい。
マナティが玲奈と修を見て口を開く。
「タクミくんもさ、玲奈さんくらいの年上の人がいいんじゃない?なんだかんだ言って修も玲奈さんに甘えてると思うもん。甘えられる人がいいかも」
急にこちらの話題になり、修と目があった。
修が慌てて逸らすので、玲奈も手羽先を口に運ぶ。
タクミは「でもさ」と言って、玲奈と修を交互に見る。
「玲奈さんと修って、今の感じだと、姉と弟に見えるよな」
修はグラスを持つ手を止めてタクミを見る。
「修は若者だけど、私はもう完全にアラサーだしね」
玲奈は笑いながらビールに手を伸ばした。
そして、今日みんなに聞きたかったことを思い出す。
「あの、聞きたいことがあるんだけど、アッキーとサワにもプロ彼女さんがいるの?」
「サワにはプロ彼女さんはいるけど、アッキーはリアル彼女がいるよ」
マナティがさらっと答える。
「リアル彼女がいるんだ」
なんだかリアル彼女のほうがリアリティに欠けるな、と玲奈は思った。
瑠加が続ける。
「サワさんのプロ彼女は沙織さんっていう人で、年は玲奈さんと同じくらいかな。フリーでライターの仕事もしてるから忙しいみたいで、あまり会えないんだ」
玲奈は沙織さんにも会ってみたいと思った。
「アッキーは一度そのリアル彼女さんと別れたみたいだけど、また復縁したんだって」
タクミはそう言ってビールの缶をテーブルに置く。
カランと軽い音がしたので、空になったようだ。
「なんでタクミくんはそんな情報知ってんの?修は知ってた?」
マナティは隣の修に聞いたが、修は黙って首を横に振るだけだった。
「アッキー本人から聞いた」
タクミはいたずらっ子のような笑顔でマナティを見る。
「リアル彼女か…」
瑠加は、箸もグラスも置いてマナティをぼんやり見ている。
「アッキーもサワも誰かさん達と違って大人だしな」
タクミは、修とマナティを交互に見ながら、こう続ける。
「二人とも、いくら契約してるプロ彼女さんだからって、甘えてばっかりはダメだと思うよ。ちゃんと彼女として扱わないと。もし上手くいかなくなったら、しっかりケジメをつけるべきだ」
「俺たちがちゃんと扱ってないって言いたいのか?」
それまでほぼ黙っていた修が口を開いた。
タクミに向けて険しい顔をしている。
玲奈が初めて見る修の顔だった。
一同に張り詰めたした空気が流れる。
犬用ベッドで大人しくしていたリンが、立ち上がってこちらをじっと見た。
「タクミくん、ちょっと飲むペース早いんじゃない?お水もらおうか」
この空気の中、一言を発してくれたのはマナティだった。
瑠加が「お水もらうね」と言って立ち上がり、ペットボトルの水をタクミに渡す。
タクミは黙って水を飲み、修はまた黙ってしまった。
なんとなく気まずい雰囲気のまま、餃子パーティはお開きとなった。
「トロトロで美味しい」
「ほんと、甘さもすっきりしてるね」
瑠加と玲奈は杏仁豆腐を一口食べ、満面の笑顔になった。
餃子パーティが気まずい雰囲気のままお開きになり、タクミが持ってきてくれた杏仁豆腐を出すのをすっかり忘れていたのだ。
今日は瑠加の大学の講義が午前中で終わるというので、帰ってから一緒に食べることになった。
「マナティの留守中に部屋に来て大丈夫だった?」
「メッセージ入れたし大丈夫だよ。マナティも、玲奈さんだったらいつでもオーケーだって」
ソファにはキャラクターのぬいぐるみが置いてあり、カーテンも明るい色が使われている。
部屋の作りは同じなのに、まったく違う場所に来たような感覚だ。
「さすが、タクミくんのチョイスって感じだよね」
瑠加は杏仁豆腐が入っていた箱とリーフレットを交互に見ている。
「修は甘いものあんまり食べないんだけど、これは反応良かったよ。ペロッと食べてた」
修が誰かに感情的になっている場面を初めて見た後だったので、少し気が引けながらも杏仁豆腐を差し出したら、意外にもすんなり食べてくれた。
「あの日はタクミくんの飲むペース、ちょっと早かったよね」
瑠加は紅茶をティーカップに注いだ。
「飲むとあんな感じなのかな?」
玲奈は紅茶を一口飲む。
「マナティが言うには、少し前からタクミくんと修の仲が微妙らしいよ」
「そうなんだ…」
修は最初に会った頃よりかはだいぶ話してくれるようになったが、メンバーについてはあまり話さない。もちろんタクミとの仲が微妙ということも聞いたことがなかった。
「タクミくんは陽キャで、王道のイケメンアイドルって感じだから、デビュー当時はセンターで売ってたんだけど、少し前から修の人気が高まってきたから、修がセンターに来ることが多くなってきたんだよね」
玲奈はGrand-Blueの人気が高まってきてから認識し出したので、センターのイメージは修だが、確かに当時のMVやテレビ出演では、タクミがセンターだった。
「センター交代みたいな感じになって、タクミくんとしてはあんまり面白くないのかな」
ライブのMCやバラエティ番組では、タクミ、マナティ、サワの三人が面白いことを言ったり、明るい雰囲気を作っている。
「二人は同い年だし、ライバルみたいな感覚があるのかもね」
瑠加もそう言ってティーカップを口に運んだ。
深紅のカップがモデル並みのスタイルに良く合っている。
「タクミくんがちょっと卑屈っぽくなってきたのって、プロ彼女さんとダメになってからみたい」
「そうなんだ…。ダメになった理由って?」
玲奈の質問に瑠加は首を横に振った。
「わかんない。私もそのプロ彼女さんとちらっとしか会ったことなかったし」
Grand-Blueの人気は上向きだが、メンバー個々で見るとそれぞれが等しく上向きとは限らない。タクミは今苦しい所にいるのかもしれない。
瑠加のスマホが短く震えた。
メッセージを見た瑠加は優しく微笑む。
「マナティから?」
玲奈も笑顔で尋ねる。
「今日は九時前に帰るって。軽く夕食作っとこうかな」
「ホントに、瑠加ちゃんとマナティって自然なカップルって感じだよね」
瑠加はいつもの元気な笑顔を返してくるかと思ったが、「うん…」と言葉を濁した。
「玲奈さんと修もだいぶ打ち解けてきたよね。餃子パーティの二人の準備作業、すごく自然だったよ」
「タクミくんには姉と弟って言われたけどね」
家での脱力系の修を見た時「これは世話が焼けるかも」と覚悟したが、一緒に暮らしてみるとそうでもなかった。
口数は少ないが、逆を言えば細かなことも言ってこないし、玲奈のプライベートも尊重してくれている。
瑠加が言うように、自然な流れで生活できているのかもしれない。
時計を見ると四時半を過ぎていた。
玲奈は、今日瑠加に聞きたかったことを思い出す。
「サワのプロ彼女さん、ライターの仕事してるって言ってたよね?仕事のかけもちって結構大変なのかな?」
「プロ彼女の仕事量って各自バラバラだからね。私の場合、家事にはそこまで気合入れてないから、大学とのかけもちでちょうどいい感じかな」
「そうだよねぇ」
玲奈は小さくため息をつく。
「要は、暇なんだ?」
「そうなの、暇なの」
玲奈はソファに座り直して少し前かがみになる。
「家事の合間にオンライン英会話のレッスン受けたり、資格の勉強もしてるんだけど、修の帰りが遅いと一日過ぎるのが長くて…」
「玲奈さん、前職でバリバリ働いてたから、余計に落差を感じるよね」
「仕事かけもちしたいって、土居さんに相談してみようかな」
瑠加は頷く。
「いいんじゃない。相談してみたら?」
そして、目を細めてニヤリとする。
「かけもちはいいけど、これから修と親密になってきたら、ちゃんとラブラブの時間も取ってあげてよ」
「ラブラブの時間って…」
玲奈は慌てる。
「やっぱり、玲奈さんってカワイイ」
瑠加はいつもの大きめの声で笑った。

