「玲奈さん、あの人のこと、信じて大丈夫そう…?」
富田には「玲奈はGrand-Blueのマネージャー補佐の仕事をしている」と言って納得してもらい、その後三人は修の部屋に集まった。
タクミは心配そうに玲奈を見る。
「前の会社にいた時、半年ほど仕事で関わったことがあるんだけど、仕事は正確で配慮もできる人だなって思ってた。長年古参ファングループの中に居たから、少し自分を見失ってただけだと思うの」
そして、玲奈は自分のスマホを取り出して画面をタップする。
スマホから聞こえる声に、タクミと修は目を丸くする。
「それって、さっきの会話?」
「うん。バッチリ録音できてるから、これを土居さんと御子柴さんに聞いてもらって、今後の対応相談するね」
「玲奈さん、さすが」
タクミは感心している。
「連絡先も交換したから、しばらく監視しつつ、彼女の推し活に付き合うよ」
そして、玲奈は目を輝かせながら言った。
「実は私もGrand-Blueが出てるドラマや映画は全部見てて、感想言い合える人が居たらなぁと思ってたんだ。修やタクミ君本人には、ちょっと言いづらいでしょ?」
タクミはふっと笑った。
「確かに、ちょっとした感想は嬉しいけど、目の前でガチの評論されると、少し引くかも…なあ、修…?」
タクミは修に同意を求めたが、修はリンを膝に乗せたままずっと黙っている。
「どうした?修」
玲奈も修を見つめる。
少し怒っているようだ。
「ストーカー騒動のこと、俺だけ知らなかったんだけど…」
修はマンション周りをうろついていた女性のことすら初耳だったのだ。
「ごめんなさい、修に心配かけたくなかったの。土居さんにも相談してて、落ち着いたら話そうと思ってたんだけど…」
修は玲奈をチラッと見た後、視線を下に落とした。
リンが修を見上げる。
「タクミは知ってたんだよね?」
「俺は、玲奈さんがあの人を見かけたすぐ後に、偶然マンション前にいたから…」
タクミはすぐにフォローに入ってくれた。
修は真剣な顔で玲奈を見た。
「そうだとしても、一緒に住んでる俺に何も言わないのはおかしくない? 落ち着いたら話すって…今日の人はたまたま玲奈さんの知り合いで、危害を加えるような人じゃなかったから良かったけど、危ない人だったらどうするの?」
「修には仕事に集中してほしかったから…」
「玲奈さんは俺の彼女なんだよ。いつまでマネージャーの感覚でいるわけ?」
「え…?」
玲奈は言葉を失う。
そんな二人を見て、タクミが立ち上がった。
「あとは二人で話したほうが良さそうだね」
そして、玲奈に笑顔を向ける。
「玲奈さん、ちゃんと彼女として修と話してやってよ。修はこう見えて寂しがり屋だから」
「ちょ、タクミ…」
修は何か言いかけようとしたが、タクミは足早に部屋を出て行った。
残された二人の間に沈黙が流れる。
リンも場の空気を読んでいるのか、自分のベッドに行ってしまった。
「ごめんなさい。私、やっぱりプロ彼女の仕事がどういったものか、まだ分かってないみたいで…」
「いや、俺がそもそも家事とリンの世話をやってくれればいいって言ってたから…」
修はいつもの声のトーンに戻っていた。
「玲奈さん」
修は玲奈の正面に座り直した。
真剣な目をしている。
玲奈はその目を見てドキリとした。
「俺は玲奈さんのこと、マネージャーでも家政婦さんでもなく、彼女として見てるよ」
修に見つめられて、玲奈の鼓動が早くなってきた。
自分の心臓の音がやたらと耳に入ってくる。
修は六歳も年下で、自分とは違う世界の人だと思っていた。
「だから…この前クルマに乗ったとき、玲奈さんにかかってきた電話の相手が誰なのか、気になってるんだけど…」
修はそう言って俯いた。
玲奈の顔もなんだか熱っぽくなってるような気がする。
「あれは…元彼…」
玲奈は、富田から元彼の浩也に告げ口があり、安否確認の電話がかかってきたことを説明した。
修の顔がだんだん曇ってくる。
「玲奈さんのこと心配して電話かけてくるなんて、未練があるんじゃないのかな?」
「いや、それは無いよ。そもそも、向こうに好きな人ができたから別れたんだし、ほんとに、単なる安否確認だと思う」
修の顔は曇ったままだ。
「玲奈さんは…その…未練は無いの…?」
修は少しかすれた声で、玲奈の手に自分の手を重ねてきた。
玲奈はまたドキリとする。
男の人の手だった。
「もう、未練は無いよ…」
修が玲奈の顔を覗き込む。
「俺が触れても、嫌じゃない?」
玲奈は黙って頷いた。
「じゃあ、こうしても?」
すると、修は玲奈を抱き寄せた。
玲奈は真っ赤になりながら「嫌じゃない」と静かに答えた。
ジムのランニングマシンのタイマーが終わりを告げ、修は額の汗を拭きながらゆっくり歩き、ベンチに座った。
「はぁ…」
玲奈との時間を思い出し、思わずタオルで顔を覆う。
今朝は何事もなかったかのように振る舞い、いつもの朝食を食べた。
玲奈はそんな修を少し警戒しているように見えた。
しかし、食器を持って玲奈に近づくと、玲奈は目を逸らし顔を真っ赤にしたのだった。
その表情が可愛くて思わずハグしてしまった。
玲奈の緊張感が伝わってくるようだった。
「これから彼女モードで接していくから、覚悟してね」
と、耳元で囁いた。
玲奈は真っ赤になった耳を手で押さえて言葉を失っていた。
(はぁ…めちゃくちゃ可愛かった)
修はタオルを頭に被せた。
ニヤけた表情を隠しきれない。
六歳年上の玲奈を恋愛対象として見るなんて、最初は思いもしなかった。
真面目で責任感があって、しっかり仕事をこなす人。
面倒見が良くて困っている人を放っておけない。
いつしか、リンを抱っこして修の帰宅を出迎えてくれる姿に癒された。
だが、タクミとプロ彼女をかけもちすると聞いた時は、正直おもしろくないと思った。
タクミにまで面倒見の良さを発揮しなくてもいいのでは、と少しイラついた。
そんな中、元カレから玲奈にかかってきた電話。
当所、玲奈に「家事とリンの世話だけやってくれればいい」と突きつけたのは自分自身だ。
その言葉は、それさえやっていれば後は自由。
つまり、他の男と会っていても文句を言われない。
そう言い張られるかと思うと、ゾッとした。
玲奈から「元カレに未練はない」と言われ、修が抱き締めたことを「嫌じゃない」と言ってくれた。
(もっと男として意識してもらわないと、な…)
修は水を飲み、もう一度ランニングマシンに向かった。
富田には「玲奈はGrand-Blueのマネージャー補佐の仕事をしている」と言って納得してもらい、その後三人は修の部屋に集まった。
タクミは心配そうに玲奈を見る。
「前の会社にいた時、半年ほど仕事で関わったことがあるんだけど、仕事は正確で配慮もできる人だなって思ってた。長年古参ファングループの中に居たから、少し自分を見失ってただけだと思うの」
そして、玲奈は自分のスマホを取り出して画面をタップする。
スマホから聞こえる声に、タクミと修は目を丸くする。
「それって、さっきの会話?」
「うん。バッチリ録音できてるから、これを土居さんと御子柴さんに聞いてもらって、今後の対応相談するね」
「玲奈さん、さすが」
タクミは感心している。
「連絡先も交換したから、しばらく監視しつつ、彼女の推し活に付き合うよ」
そして、玲奈は目を輝かせながら言った。
「実は私もGrand-Blueが出てるドラマや映画は全部見てて、感想言い合える人が居たらなぁと思ってたんだ。修やタクミ君本人には、ちょっと言いづらいでしょ?」
タクミはふっと笑った。
「確かに、ちょっとした感想は嬉しいけど、目の前でガチの評論されると、少し引くかも…なあ、修…?」
タクミは修に同意を求めたが、修はリンを膝に乗せたままずっと黙っている。
「どうした?修」
玲奈も修を見つめる。
少し怒っているようだ。
「ストーカー騒動のこと、俺だけ知らなかったんだけど…」
修はマンション周りをうろついていた女性のことすら初耳だったのだ。
「ごめんなさい、修に心配かけたくなかったの。土居さんにも相談してて、落ち着いたら話そうと思ってたんだけど…」
修は玲奈をチラッと見た後、視線を下に落とした。
リンが修を見上げる。
「タクミは知ってたんだよね?」
「俺は、玲奈さんがあの人を見かけたすぐ後に、偶然マンション前にいたから…」
タクミはすぐにフォローに入ってくれた。
修は真剣な顔で玲奈を見た。
「そうだとしても、一緒に住んでる俺に何も言わないのはおかしくない? 落ち着いたら話すって…今日の人はたまたま玲奈さんの知り合いで、危害を加えるような人じゃなかったから良かったけど、危ない人だったらどうするの?」
「修には仕事に集中してほしかったから…」
「玲奈さんは俺の彼女なんだよ。いつまでマネージャーの感覚でいるわけ?」
「え…?」
玲奈は言葉を失う。
そんな二人を見て、タクミが立ち上がった。
「あとは二人で話したほうが良さそうだね」
そして、玲奈に笑顔を向ける。
「玲奈さん、ちゃんと彼女として修と話してやってよ。修はこう見えて寂しがり屋だから」
「ちょ、タクミ…」
修は何か言いかけようとしたが、タクミは足早に部屋を出て行った。
残された二人の間に沈黙が流れる。
リンも場の空気を読んでいるのか、自分のベッドに行ってしまった。
「ごめんなさい。私、やっぱりプロ彼女の仕事がどういったものか、まだ分かってないみたいで…」
「いや、俺がそもそも家事とリンの世話をやってくれればいいって言ってたから…」
修はいつもの声のトーンに戻っていた。
「玲奈さん」
修は玲奈の正面に座り直した。
真剣な目をしている。
玲奈はその目を見てドキリとした。
「俺は玲奈さんのこと、マネージャーでも家政婦さんでもなく、彼女として見てるよ」
修に見つめられて、玲奈の鼓動が早くなってきた。
自分の心臓の音がやたらと耳に入ってくる。
修は六歳も年下で、自分とは違う世界の人だと思っていた。
「だから…この前クルマに乗ったとき、玲奈さんにかかってきた電話の相手が誰なのか、気になってるんだけど…」
修はそう言って俯いた。
玲奈の顔もなんだか熱っぽくなってるような気がする。
「あれは…元彼…」
玲奈は、富田から元彼の浩也に告げ口があり、安否確認の電話がかかってきたことを説明した。
修の顔がだんだん曇ってくる。
「玲奈さんのこと心配して電話かけてくるなんて、未練があるんじゃないのかな?」
「いや、それは無いよ。そもそも、向こうに好きな人ができたから別れたんだし、ほんとに、単なる安否確認だと思う」
修の顔は曇ったままだ。
「玲奈さんは…その…未練は無いの…?」
修は少しかすれた声で、玲奈の手に自分の手を重ねてきた。
玲奈はまたドキリとする。
男の人の手だった。
「もう、未練は無いよ…」
修が玲奈の顔を覗き込む。
「俺が触れても、嫌じゃない?」
玲奈は黙って頷いた。
「じゃあ、こうしても?」
すると、修は玲奈を抱き寄せた。
玲奈は真っ赤になりながら「嫌じゃない」と静かに答えた。
ジムのランニングマシンのタイマーが終わりを告げ、修は額の汗を拭きながらゆっくり歩き、ベンチに座った。
「はぁ…」
玲奈との時間を思い出し、思わずタオルで顔を覆う。
今朝は何事もなかったかのように振る舞い、いつもの朝食を食べた。
玲奈はそんな修を少し警戒しているように見えた。
しかし、食器を持って玲奈に近づくと、玲奈は目を逸らし顔を真っ赤にしたのだった。
その表情が可愛くて思わずハグしてしまった。
玲奈の緊張感が伝わってくるようだった。
「これから彼女モードで接していくから、覚悟してね」
と、耳元で囁いた。
玲奈は真っ赤になった耳を手で押さえて言葉を失っていた。
(はぁ…めちゃくちゃ可愛かった)
修はタオルを頭に被せた。
ニヤけた表情を隠しきれない。
六歳年上の玲奈を恋愛対象として見るなんて、最初は思いもしなかった。
真面目で責任感があって、しっかり仕事をこなす人。
面倒見が良くて困っている人を放っておけない。
いつしか、リンを抱っこして修の帰宅を出迎えてくれる姿に癒された。
だが、タクミとプロ彼女をかけもちすると聞いた時は、正直おもしろくないと思った。
タクミにまで面倒見の良さを発揮しなくてもいいのでは、と少しイラついた。
そんな中、元カレから玲奈にかかってきた電話。
当所、玲奈に「家事とリンの世話だけやってくれればいい」と突きつけたのは自分自身だ。
その言葉は、それさえやっていれば後は自由。
つまり、他の男と会っていても文句を言われない。
そう言い張られるかと思うと、ゾッとした。
玲奈から「元カレに未練はない」と言われ、修が抱き締めたことを「嫌じゃない」と言ってくれた。
(もっと男として意識してもらわないと、な…)
修は水を飲み、もう一度ランニングマシンに向かった。

