新曲のレコーディングは順調に終わった。
修は真那斗の様子を心配していたが、プロ根性を見せ、最後まで歌い切ってくれた。
「真那斗、お疲れ」
修は真那斗の肩をポンとたたいた。
レコーディングスタジオ隣の休憩室にはアッキー、サワ、タクミ、土居が飲み物を片手に話しており、誰も帰り支度をしようとしていなかった。
皆も真那斗の様子が気になっているのかもしれない。
「アッキー、曲の振り付け仕上がってきた?」
「うん、ほぼ固まってきた。今回サビのセンターは真那斗でいくから」
アッキーは真那斗に目配せした。
その時休憩室のドアが開いた。
「お疲れさまー」
そう言って笑顔で入ってきたのは、事務所の先輩の園田雅人だった。
「雅人さん、お久しぶりです」
アッキーの言葉を皮切りに、皆立って「お疲れさまです」と一礼する。
「相変わらずGrand-Blueは礼儀正しいよね」
そう言ってニコリと笑う雅人に修もつい笑顔になる。
オンとオフがこんなにも変わらないのは、この人以外に居ないといつも思ってしまう。
「たまたま近くで仕事があってね。五人揃って会える機会もなかなかないから、これはチャンスって思って」
すかさずサワが前のめりになる。
「雅人さんって、なんか見抜く力があるんですか?実は約一名、悩める男子がおりまして」
「何で悩んでるの?」
雅人の質問に五人は顔を見合わせる。「誰が?」とは聞かれていない。
「プロ彼女とのことで…」
答えたのは真那斗だった。
雅人は穏やかな笑顔で椅子に座る。
「今更ながら、プロ彼女として一人の女性を付き合わせてしまっていいのか、とか、考えてしまって…」
真剣な表情の真那斗を見て、雅人も一瞬神妙な面持ちになった。
「確かに、契約で結ばれた関係だしね…俺も葛藤はあったよ」
五人はしばらく黙る。
それぞれ何か考えているようだった。
「でも、契約で結ばれた関係だからこそ、俺の場合は、相手と真剣に向き合えたって思ってるんだ。あくまで俺の場合は、ね」
穏やかな笑顔に戻った雅人は、話を続ける。
「実は…俺の奥さん、プロ彼女の契約を解除したい、と言ってきたことがあったんだ」
真那斗と修はお互いの顔を見る。真那斗の今の状況と同じだ。
「色んな仕事が入ってきてトップアイドルって言われるようになってくると、一般人の自分とでは釣り合わないって思ったんだって。私じゃあなたに与えられるものが何も無いって言われたよ」
すかさずアッキーが身を乗り出す。
「俺の彼女も同じようなこと言ってました」
修の頭に玲奈の姿が浮かんだ。
玲奈は一年ほど前まで普通に会社員として働いていた一般人だ。
ふと、どういう理由でプロ彼女を引き受けてくれたのか気になった。
「だけど、俺は、彼女の一般人としての感性を身近に感じることが大切だと思ったんだ。売れてくると、どうしても自分は他と違うって過信が生まれる。そんな時、一般人としての彼女の言葉に何度もハッとさせられたよ」
「俺たちアイドルは一般のファンに支えられている。アイドルとして夢を与えながらも、決してファンの気持ちから離れてはいけないんですよね」
サワが静かに語った。
雅人は何度も頷く。
「あくまで男女の仲だから、お互い気持ちが離れて別れることもあるのは仕方ないよ。でも、俺は一人の女性と真剣に向き合えたことで、仕事やファンへの向き合い方もより真剣になれたと思ってる」
そして、雅人はこう続ける。
「最初は家に帰って温かいごはんがあるのが嬉しくて彼女に甘えてたんだけど、今はそういう役割みたいなのがなくても心の繋がりができたって感じてるよ」
真那斗は何か考えるような仕草をした後、口を開いた。
「彼女も仕事もファンも、同じように真剣に向き合うって、大変じゃなかったですか?」
雅人はクラウンを解散した今は俳優業中心で仕事しているが、全盛期は今のGrand-Blueの忙しさとは比べ物にならない程活躍していたと言ってもいい。
「確かに大変だったよ。実際、仕事に集中したいって別れた人もいるしね…。けど、俺は、気づいた時には彼女が居ないと仕事に向き合えないってところまできてたからね」
ハハハと照れ笑いする雅人を見て、修はまた改めて雅人の懐の深さを知ったと思った。
「雅人さんはもうそこまで彼女さんのことを思っていたから、全部を頑張るしかなかったんですね?」
真那斗も雅人の笑顔につられて、穏やかな顔になった。
「そうとも言えるけど、彼女がいてくれたから頑張れたってのが大きいかな」
「雅人さんと彼女さんは、まさに運命の出会いですね」
サワの言葉に、修は玲奈のことを考える。
(運命の出会い、か…)
「まあ、実際結婚までしたし、運命の出会いなのかもね。あ、俺…来月、もう一つ運命の出会いする予定だから」
雅人の発言に五人は一瞬固まる。
真っ先に気付いたのはタクミだった。
「雅人さん、それって…お子さんってこと…?」
「当たりー」
雅人は子どものように無邪気に笑った。
「分かってると思うけど、まだ誰にも言っちゃダメだからな」
驚く五人に土居が釘を刺す。
修は真那斗を見た。
明らかに目に力が入っているように見えた。
帰りのタクシーの中、修は雅人の話を思い出していた。
実は雅人の奥さんは、プロ彼女だった頃、途中で契約を変え、プロ彼女としての報酬は受け取らないことにした、と言っていた。
『契約とか関係なく普通の彼女になってもらっても良かったんだけど、プロ彼女として契約してると事務所に守ってもらえる利点はあるからね』
つまり、報酬は支払われないプロ彼女、として契約を結んでいたようだ。
『プロ彼女の契約形態は個別に色々あっていいと思うよ。そこのところは、うちの優秀なマネージャーと顧問弁護士がなんとかしてくれるから』
確かにその通りだと思った。
男女の付き合い方は個々で違うのだ。個別の契約形態があってもおかしくない。
真那斗もその話を聞いて、もう一度瑠加とよく話し合ってみる、と言った。
(俺も、玲奈さんとのこと、ちゃんとしないとな…)
まだ玲奈の「男居るかもしれない疑惑」も晴れていない。
先日瑠加とパーティーに来ていたことも気になる。
しかも、モデルの男と楽しそうに話している場面も見てしまった。
気が付くと心がモヤモヤしていた。
そして、無性に今、玲奈の作ったごはんが食べたいと思った。
修は真那斗の様子を心配していたが、プロ根性を見せ、最後まで歌い切ってくれた。
「真那斗、お疲れ」
修は真那斗の肩をポンとたたいた。
レコーディングスタジオ隣の休憩室にはアッキー、サワ、タクミ、土居が飲み物を片手に話しており、誰も帰り支度をしようとしていなかった。
皆も真那斗の様子が気になっているのかもしれない。
「アッキー、曲の振り付け仕上がってきた?」
「うん、ほぼ固まってきた。今回サビのセンターは真那斗でいくから」
アッキーは真那斗に目配せした。
その時休憩室のドアが開いた。
「お疲れさまー」
そう言って笑顔で入ってきたのは、事務所の先輩の園田雅人だった。
「雅人さん、お久しぶりです」
アッキーの言葉を皮切りに、皆立って「お疲れさまです」と一礼する。
「相変わらずGrand-Blueは礼儀正しいよね」
そう言ってニコリと笑う雅人に修もつい笑顔になる。
オンとオフがこんなにも変わらないのは、この人以外に居ないといつも思ってしまう。
「たまたま近くで仕事があってね。五人揃って会える機会もなかなかないから、これはチャンスって思って」
すかさずサワが前のめりになる。
「雅人さんって、なんか見抜く力があるんですか?実は約一名、悩める男子がおりまして」
「何で悩んでるの?」
雅人の質問に五人は顔を見合わせる。「誰が?」とは聞かれていない。
「プロ彼女とのことで…」
答えたのは真那斗だった。
雅人は穏やかな笑顔で椅子に座る。
「今更ながら、プロ彼女として一人の女性を付き合わせてしまっていいのか、とか、考えてしまって…」
真剣な表情の真那斗を見て、雅人も一瞬神妙な面持ちになった。
「確かに、契約で結ばれた関係だしね…俺も葛藤はあったよ」
五人はしばらく黙る。
それぞれ何か考えているようだった。
「でも、契約で結ばれた関係だからこそ、俺の場合は、相手と真剣に向き合えたって思ってるんだ。あくまで俺の場合は、ね」
穏やかな笑顔に戻った雅人は、話を続ける。
「実は…俺の奥さん、プロ彼女の契約を解除したい、と言ってきたことがあったんだ」
真那斗と修はお互いの顔を見る。真那斗の今の状況と同じだ。
「色んな仕事が入ってきてトップアイドルって言われるようになってくると、一般人の自分とでは釣り合わないって思ったんだって。私じゃあなたに与えられるものが何も無いって言われたよ」
すかさずアッキーが身を乗り出す。
「俺の彼女も同じようなこと言ってました」
修の頭に玲奈の姿が浮かんだ。
玲奈は一年ほど前まで普通に会社員として働いていた一般人だ。
ふと、どういう理由でプロ彼女を引き受けてくれたのか気になった。
「だけど、俺は、彼女の一般人としての感性を身近に感じることが大切だと思ったんだ。売れてくると、どうしても自分は他と違うって過信が生まれる。そんな時、一般人としての彼女の言葉に何度もハッとさせられたよ」
「俺たちアイドルは一般のファンに支えられている。アイドルとして夢を与えながらも、決してファンの気持ちから離れてはいけないんですよね」
サワが静かに語った。
雅人は何度も頷く。
「あくまで男女の仲だから、お互い気持ちが離れて別れることもあるのは仕方ないよ。でも、俺は一人の女性と真剣に向き合えたことで、仕事やファンへの向き合い方もより真剣になれたと思ってる」
そして、雅人はこう続ける。
「最初は家に帰って温かいごはんがあるのが嬉しくて彼女に甘えてたんだけど、今はそういう役割みたいなのがなくても心の繋がりができたって感じてるよ」
真那斗は何か考えるような仕草をした後、口を開いた。
「彼女も仕事もファンも、同じように真剣に向き合うって、大変じゃなかったですか?」
雅人はクラウンを解散した今は俳優業中心で仕事しているが、全盛期は今のGrand-Blueの忙しさとは比べ物にならない程活躍していたと言ってもいい。
「確かに大変だったよ。実際、仕事に集中したいって別れた人もいるしね…。けど、俺は、気づいた時には彼女が居ないと仕事に向き合えないってところまできてたからね」
ハハハと照れ笑いする雅人を見て、修はまた改めて雅人の懐の深さを知ったと思った。
「雅人さんはもうそこまで彼女さんのことを思っていたから、全部を頑張るしかなかったんですね?」
真那斗も雅人の笑顔につられて、穏やかな顔になった。
「そうとも言えるけど、彼女がいてくれたから頑張れたってのが大きいかな」
「雅人さんと彼女さんは、まさに運命の出会いですね」
サワの言葉に、修は玲奈のことを考える。
(運命の出会い、か…)
「まあ、実際結婚までしたし、運命の出会いなのかもね。あ、俺…来月、もう一つ運命の出会いする予定だから」
雅人の発言に五人は一瞬固まる。
真っ先に気付いたのはタクミだった。
「雅人さん、それって…お子さんってこと…?」
「当たりー」
雅人は子どものように無邪気に笑った。
「分かってると思うけど、まだ誰にも言っちゃダメだからな」
驚く五人に土居が釘を刺す。
修は真那斗を見た。
明らかに目に力が入っているように見えた。
帰りのタクシーの中、修は雅人の話を思い出していた。
実は雅人の奥さんは、プロ彼女だった頃、途中で契約を変え、プロ彼女としての報酬は受け取らないことにした、と言っていた。
『契約とか関係なく普通の彼女になってもらっても良かったんだけど、プロ彼女として契約してると事務所に守ってもらえる利点はあるからね』
つまり、報酬は支払われないプロ彼女、として契約を結んでいたようだ。
『プロ彼女の契約形態は個別に色々あっていいと思うよ。そこのところは、うちの優秀なマネージャーと顧問弁護士がなんとかしてくれるから』
確かにその通りだと思った。
男女の付き合い方は個々で違うのだ。個別の契約形態があってもおかしくない。
真那斗もその話を聞いて、もう一度瑠加とよく話し合ってみる、と言った。
(俺も、玲奈さんとのこと、ちゃんとしないとな…)
まだ玲奈の「男居るかもしれない疑惑」も晴れていない。
先日瑠加とパーティーに来ていたことも気になる。
しかも、モデルの男と楽しそうに話している場面も見てしまった。
気が付くと心がモヤモヤしていた。
そして、無性に今、玲奈の作ったごはんが食べたいと思った。

