私はしばらく何も言えなかった。
完璧に見えた人。
冷たくて、正確で、感情を見せない人。
その人が、今、私にだけ少し扉を開けてくれている。
私は、その扉の前で、言葉を選んだ。
「先生」
「なんだ」
「怖いなら、隣にいます」
先生の目が、初めてこちらを向いた。
私は逃げずに、その目を見返す。
「先生が見られないものは、私が見ます」
「……」
「先生が言葉にできない時は、私が言葉にします」
喉の奥が少し震えた。
でも、言い切りたかった。
支えたい。
治したいんじゃない。
怖いものを、怖くなくしてあげたいんじゃない。
怖いままでも、隣にいたい。
「だから、私が走りすぎる時は、先生が止めてください」
先生の表情は変わらなかった。
けれど、呼吸だけが少し深くなったのがわかった。
「君は簡単に言う」
「簡単じゃありません。でも、相棒なので」
言った瞬間、自分の胸が大きく鳴った。
相棒。
真鍋先輩にからかわれていた言葉。
先生が否定したり、しなかったりする言葉。
いつの間にか、私の中で大事になっていた言葉。
先生は、すぐには返さなかった。
資料室の静けさの中で、雨の名残が窓を伝う音がした。
やがて先生は、小さく呟いた。
「相棒、か」
それだけだった。
嬉しそうでもない。
照れたようでもない。
ただ、確かめるような声。
でも、その言葉を否定しなかった。
完璧に見えた人。
冷たくて、正確で、感情を見せない人。
その人が、今、私にだけ少し扉を開けてくれている。
私は、その扉の前で、言葉を選んだ。
「先生」
「なんだ」
「怖いなら、隣にいます」
先生の目が、初めてこちらを向いた。
私は逃げずに、その目を見返す。
「先生が見られないものは、私が見ます」
「……」
「先生が言葉にできない時は、私が言葉にします」
喉の奥が少し震えた。
でも、言い切りたかった。
支えたい。
治したいんじゃない。
怖いものを、怖くなくしてあげたいんじゃない。
怖いままでも、隣にいたい。
「だから、私が走りすぎる時は、先生が止めてください」
先生の表情は変わらなかった。
けれど、呼吸だけが少し深くなったのがわかった。
「君は簡単に言う」
「簡単じゃありません。でも、相棒なので」
言った瞬間、自分の胸が大きく鳴った。
相棒。
真鍋先輩にからかわれていた言葉。
先生が否定したり、しなかったりする言葉。
いつの間にか、私の中で大事になっていた言葉。
先生は、すぐには返さなかった。
資料室の静けさの中で、雨の名残が窓を伝う音がした。
やがて先生は、小さく呟いた。
「相棒、か」
それだけだった。
嬉しそうでもない。
照れたようでもない。
ただ、確かめるような声。
でも、その言葉を否定しなかった。



