夜が深くなるころ、私は監察医務院の資料室にいた。
署での確認を終えた後、沢渡先生が検査部から届いた追加資料を見たいと言い、私も同行した。
監察医務院の夜は、警察署よりも静かだった。
廊下の蛍光灯は白く、どこまでも温度が低い。
窓の外には、雨上がりの街が濡れて光っている。
資料室には、紙の匂いと、消毒薬の薄い匂いがあった。
机の上に広げられたファイル。
夏目莉子さんのスマホ写真の印刷。
藤堂さんの救急搬送記録。
白峰メディカルケアの薬剤管理表。
事件は確かに進んでいる。
でも、何かがまだ噛み合わない。
神崎さんへ向かう線。
女性が封筒を渡したという証言。
橘さんの怯え方。
夏目さんの写真。
私は資料を睨みながら、唇を噛んだ。
「噛むな」
不意に言われて、顔を上げる。
沢渡先生は、向かいの席で資料をめくっていた。
「え?」
「唇を噛んでいる。思考が焦っている証拠だ」
「先生、本当に何でも見てますね」
「見えるものは見る」
前にも聞いた言葉。
けれど今夜は、その言葉の奥が少し違って聞こえた。
私はペンを置いた。
「先生は、見えないものも見ようとしている気がします」
先生の指が、紙の端で止まった。
「何の話だ」
「死者の声、とか」
口にしてから、少し踏み込みすぎたかもしれないと思った。
でも、先生は怒らなかった。
静かな資料室の中で、時計の針の音だけが聞こえる。
署での確認を終えた後、沢渡先生が検査部から届いた追加資料を見たいと言い、私も同行した。
監察医務院の夜は、警察署よりも静かだった。
廊下の蛍光灯は白く、どこまでも温度が低い。
窓の外には、雨上がりの街が濡れて光っている。
資料室には、紙の匂いと、消毒薬の薄い匂いがあった。
机の上に広げられたファイル。
夏目莉子さんのスマホ写真の印刷。
藤堂さんの救急搬送記録。
白峰メディカルケアの薬剤管理表。
事件は確かに進んでいる。
でも、何かがまだ噛み合わない。
神崎さんへ向かう線。
女性が封筒を渡したという証言。
橘さんの怯え方。
夏目さんの写真。
私は資料を睨みながら、唇を噛んだ。
「噛むな」
不意に言われて、顔を上げる。
沢渡先生は、向かいの席で資料をめくっていた。
「え?」
「唇を噛んでいる。思考が焦っている証拠だ」
「先生、本当に何でも見てますね」
「見えるものは見る」
前にも聞いた言葉。
けれど今夜は、その言葉の奥が少し違って聞こえた。
私はペンを置いた。
「先生は、見えないものも見ようとしている気がします」
先生の指が、紙の端で止まった。
「何の話だ」
「死者の声、とか」
口にしてから、少し踏み込みすぎたかもしれないと思った。
でも、先生は怒らなかった。
静かな資料室の中で、時計の針の音だけが聞こえる。



